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第二章
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しおりを挟む脩は重たい瞼を開いた。泣き腫らしたせいか、目が染みるように痛む。
秋良はすでに起きて、窓枠に腰掛けスマホの画面を見つめていた。窓から差し込む朝日に照らされ、影を落としている。見たことのない冷たい眼差しを手元に落とし、思わず声をかけるタイミングを見失う。
「あっ! 先輩、おはようございます」
脩の視線に気づいたのか、スマホから顔を上げると柔らかい表情で微笑みかけてくる。
「おはよう。昨日はごめんな」
「いえ、頼ってもらえて良かったです。あの後、すぐに寝てたので安心しました」
宣言通りに、傍にいてくれたのだろう。気づいたときには、脩は眠りに落ちていた。
「本当にありがとう」
怖い夢を見て後輩に泣きついてしまう先輩なんて、この世に自分ぐらいなものだろう。恥ずかしさに思わず、秋良から視線を逸らす。
「今日は俺が運転しますから」
「悪いな……」
昨日の夢が引っかかり、運転に集中できそうにない。それに加えて、目が腫れぼったくて痛い。
「良いんです。先輩ばかりだと、申し訳ないですから」
「ごめん。ありがとう」
脩は重だるい体を無理やり動かし、洗面所に向かう。
お互いに身支度を整え、このホテルでの最後の食事を済ませる。
重い荷物を後部座席に押し込むと、来た時とは逆に脩は助手席に乗り込む。
運転席に乗り込んできた秋良は、「じゃあ、出しますね」と軽やかに車を走らせて行く。
「昨日あまり寝てないでしょうし、着いたら起こすので寝てても良いですよ」
秋良が気遣わしげな声音に、脩は苦笑いをする。これじゃあ、立場が逆だなと苦い気持ちが込み上げてしまう。
「ありがとう。大丈夫だから」
不思議と眠気はなかった。ただ、胸に暗澹としたものが漂っている。やっぱり清治か道雄に聞くべきなのかと、脩はぼんやりと考え込む。
考え込んでいる脩に気を使ってか、会社に戻るまでの間は秋良はあまり話しかけて来ない。有難いようで、少しだけ寂しいと思ってしまった。
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