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残傷の冬
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しおりを挟む「その代わり、夕飯は僕の好きなやつにしてよ」
「おう、任せとけ」
何でも作ってやると、咲本が意気込む。
「祐智が好きな物って言ったら、マシュマロ以外ならおにぎりだよな」
「えっ? 何でおにぎり?」
おにぎりも確かに嫌いじゃないけど、好きな物かと聞かれればちょっと違う。
「だってさぁ、昼休みに年中食ってんじゃん。祐智イコールおにぎりってぐらいに」
「そんなに食べてないよ。たまにパン食べてんじゃん」
そうだったかと、咲本がとぼけた顔をする。
僕はそこで、ちょっとした悪戯心が湧いていた。
「もういい。おにぎりじゃあ、割に合わない」
僕がそう言ってから、体を翻してもと来た道を戻ろうとする。
思っていた通りに、咲本が慌てて前に回り込んでくる。
「分かった、分かった。俺が悪かった。祐智のことを知ったかぶりしたから、そりゃあ怒るよな」
「別にそういうわけじゃなくて……」
「よし。じゃあ、すき焼きにするか」
そこでなんですき焼き? とも思ったけれど、以前に作ってくれたすき焼きが美味しかったから良しとしよう。
「しょうがないなぁ」
わざとらしく僕は溜息を吐いて、再び向かうべき方向へと向き直る。咲本が安堵したような顔をする。
咲本を振り回している僕。
普段は振り回される側の立場なのに、僕がわがままを言って咲本の反応を楽しんでいる。
なんだか自分の行動がおかしくて、笑ってしまった。咲本相手に、何してんだろと思ったからだ。
突然、笑い出す僕に、咲本がきょとんとした顔をする。
それもおかしくて、僕はさらに涙が出るほど笑った。こんなに笑ったのは、どれぐらい振りだろうか。
「祐智が狂った」
呟く咲本に「狂ってないから」と、指先で涙を拭いながら言う。まだ息が苦しくて、大きく喘いでいた。
いつもと立場が逆転している状況に、僕はこれはこれで悪くないなと思えた。
他人の顔色を窺い、余計な発言をしないようにしてきた僕が、やっと咲本の前で自分を出せたのかもしれない。
咲本の近くにいる限り、何かに巻き込まれるのは仕方がないことだ。
だったら、咲本も僕に少しは振り回されたって良いんじゃないのだろうか。
「マシュマロ食べたい」
僕は更なる要求をしてみる。
「今から買いに行くか? でももう、閉まってんじゃねーのか」
「冗談だよ」
僕がそう言って笑うと、咲本が「祐智もそんな冗談言えるんだな」と驚く。
星が瞬いている寒空の下。
友人と歩く僕は今、人とはちょっと変わった青春を満喫しているのだった。
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