咲本翔琉は僕を巻き込む

箕田 はる

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残傷の冬

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「気にすんなって。他人は他人。自分は自分だろ」

 強引だなぁと思いつつ、僕は諦めて溜息を吐く。
 咲本の傍にいれば、彼のペースでわがままに、付き合わされるのはしょうがないことだった。

「早速、予定立てようぜ。今から俺んち来いよ」
「今から?」

 もう六時を過ぎていて、とっくに外は真っ暗だった。

「今日、家に誰もいないからさ。飯作ってやるよ」

 咲本の料理を食べている僕としては、それは魅力的な誘いだった。それに友達の家で夕飯を食べるという事をしたことがなかった。

「でも……親に言ってないしなぁ」
「今から連絡すれば、間に合うだろ。ほら、スマホ出せ」

 電車を待ちながら、僕はスマホを取り出す。
 少し緊張しながら、自宅に電話をかけた。
 初めて母親に友達の家でご飯を食べる旨を伝えると、あっさりとオッケーして貰えた。
 あんまり遅くならないようにとは言われたけれど、駄目だと言われなかったことに少しだけ感動していた。

「大丈夫だったろ」
「うん」

 電車がホームに滑り込んでくる。

「あっ、てか、いっそのこと泊まってけよ」

 電車に乗り込みながら、咲本が言う。

「えーでもなぁ。着替えないし」
「着替えなら、俺が貸してやる。下着はコンビニで買えば良いだろ。だから、後でもう一回電話しろよ」

 僕は迷っていたが、何だかテンションが上がっていたせいか、それでもいい気がしていた。
 こうして突発的に友達の家に泊まる、という事をしたことがなかったのだ。
 それに僕はやっと、誰もが経験するような青春を体験出来ているのだと思って、嬉しかったのかもしれない。
 電車を乗り継ぎ、いつもの駅のホームが見えてくる。
 僕達は電車を降りると、咲本に促されながら、またしても家に電話をかけた。
 母は少し驚きながらも、駄目とは言わず迷惑をかけないようにとだけ言ってくる。
 僕は電話を切ると、「大丈夫だった」と報告する。

「そうか、良かった」

 明らかにホッとしている咲本に、僕は疑問を抱く。

「なんで、咲本がホッとしてんの?」

 僕が問い詰めると、咲本が視線を迷わせる。

「あーまぁ……約束だもんな」

 少し悩んでから、「実はな――」と気まずそうな顔をする。
 僕は途端に、いつもの流れだとすぐに分かった。

「最近、俺んちで変な現象があって、ねぇちゃんが怖がっててさぁ。彼氏んとこに泊まってるんだよ」
「変な現象?」

 この寒い時期にさらに、寒くなるような話になりそうだった。

「自分以外に誰もいないはずなのに、下から物音がしたり、寝ているときに金縛りにあったりだとか」
「だからって、なんで僕を泊まらせるんだよ」

 咲本がその事を怖がるほど、柔な精神でないことは分かっていた。

「一緒に解明して欲しいって思って。でも祐智が泊まってくれんのは、純粋に嬉しいと思ってるからな」

 咲本が弁解するような声で言う。

「……分かったよ。でも、僕は何にもできないからね」
「何言ってんだよ。数々の難事件を解決してきた祐智なんだぞ。そんなに自分を卑下すんなって」

 そんな大それた言い方をする咲本の顔は本気だった。
 勝手な思い込みであっても、咲本が僕を必要としてくれているのは、悪い気はしなかった。

「もう良いよ、分かったから」

 僕がそう言うと、咲本は満足そうな笑みを浮かべる。

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