咲本翔琉は僕を巻き込む

箕田 はる

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残傷の冬

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「案ずるなよ、童貞くん。まだ先は長いからな」
「余計なお世話だ」

 僕は咲本を睨んだ。それなのに咲本は、相変わらずにやけ顔をやめない。

「良いねーウブな感じが、祐智を引き立てる」
「わけわかんないよ」

 気づけば僕は気兼ねせず、咲本に言い返していた。
 こんな風に同級生と話をしたのは、久しぶりかもしれない。

「まぁー、祐智が童貞なのは置いておいて、祐智が俺に秘密を打ち明けた。だから俺もお前にだけ話した。これで一蓮托生だな」
「大袈裟だなー」

 僕が呆れた声で返すも、咲本は至って真面目な顔する。

「大袈裟なわけねーよ。お前と俺は墓場まで持っていく秘密を互いに共有してんだ。その重みはお前も分かるだろ?」
「……そうかもしれないけど」

 会って一時間ほどの人間と、そんな簡単に信頼を築いていけるのか分からなかった。
 そもそも僕は、小五から人間関係の構築を放棄していた。何もかも諦め、ただ殻に閉じこもり、嵐が過ぎ去るのをじっと待ってきたのだから。

「そこでだな。高校は同じとこがいいだろ」

 それから咲本は、公立の偏差値がこの都市でもニ番目に高いところを指定してきた。

「私立じゃあー親も困るだろ? お前んちの経済力を知らねーけど、無駄な恩は着せるもんじゃねぇ。ニ番目ならお前でもよゆーだろ?」
「無理だよ……そんな頭良くないから」

 確かそこの高校は、偏差値六十以上あるはずだ。いくら友達がいないからって、四六時中勉強していたわけじゃない。

「推薦は無理でも、一般でなんとかなるだろ? まだ二ヶ月ある。俺がみっちり鍛えてやるからよー」
「二ヶ月じゃあー、無理に決まってる」
「無理じゃねーよ。それに俺だって本当は、偏差値高い私立に行けって言われてんだ。これから説得しなきゃなんねー。俺の課題と比べれば、祐智が入試に受かる方が、楽なんだからな」

 なんでそんな恩着せがましく言えるんだと、僕は唖然とする。

「別に、一緒の高校じゃなくたって……」
「それはダメだ」

 咲本がきっぱり言った。

「俺たちは今日から、一蓮托生なんだ。出来る限り傍にいなくちゃ、互いの危機に備えられないだろ」

 どんな危機だよと思いながらも、僕はなんだか複雑な気持ちになっていた。
 咲本の言い分は極論だし、普通だとは思えない。それなのに、僕にはなんだか嬉しく思えてしまっていた。
 まるで初めて友達ができたかのような、なんとも面映い感情が込み上げる。

「心配すんな。こう見えて俺は、喧嘩も強いからな」

 腕っ節を見せつけるように、咲本が腕を曲げてそこを叩く。

「でも……僕はなんの役にも立てないよ。それなのに良いの?」

 咲本が優秀である事を知れば知るほど、自分の劣等感が浮き彫りになる。変わり者であってもスキルが多ければ、それだけ色々とカバーできるし人からも認められるはずだ。
 わざわざ僕と一緒にいて、レベルを落とす必要はないように思えた。

「祐智は馬鹿だなー何度言ったら分かるんだよ。俺たちは、一蓮托生なんだって。もしかして……一蓮托生の意味を知らないのか?」

 咲本がまさかと、疑うような顔をする。

「知ってるに決まってんじゃん!」

 僕はムッとして言い返す。

「良かった。小学校から教えなきゃなんねーのかと思った」

 あからさまに安堵の笑みを浮かべる咲本に、僕は毒気を抜かれる。

「そうと決まれば早速、俺んちにいくぞ。事は早い方がいいからな」

 言うなり咲本が、勢いよく立ち上がる。
 僕はただ目を白黒させた。そんな早々と人を家にあげられる気の早さといい、警戒心の薄さに僕が逆に心配になった。

「僕が何者かも分からないのに、無警戒すぎない?」
「はぁ? 死ぬほど辛い思いした奴が、人を傷つけたりしねーよ」

 またしても極論だ。
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