咲本翔琉は僕を巻き込む

箕田 はる

文字の大きさ
上 下
62 / 72
残傷の冬

4

しおりを挟む

 さすがにイジメられ続け、加えて両親からも心配され、僕は次第に周囲と距離を取るようになった。
 石になったように、誰とも接しないようにして、どうしてもグループを作らなきゃいけない時は、余った所に入っていた。
 僕は二度と人形に恋してるだなんて言わないし、興味がある素振りも見せなかった。
 それなのにも関わらず、中学に上がっても小学校からの繰り上がりの生徒が多く、イジメは続いていた。
 知らないはずの人にも、言いふらされたせいでいつのまにか広まっていた。
 僕は息を殺すようにして、学校生活を送っていた。
 運動会や修学旅行、文化祭は、水風呂に入ったり、わざとお腹を出して寝たりして、風邪を引いてほとんど休んでいた。
 ちゃんと熱が出る度に安堵し、仮病だとバレるのが怖かったから必死だった。
 プールの授業も、あまり参加していない。
 下着を隠されたり、着替えの時に写真を撮られたことがあるからだ。プールで足を引っ張られたり、頭を押さえつけられたりしたこともある。
 あのまま溺れ死んでれば、イジメてくる奴らが少しは反省したかもしれない。そんな風に思ったことが何度となくあった。
 そんな僕の唯一の救いは、清美さんに会いに祖父母の家に行った時だけだ。
 祖父母だけは僕に何も言わなければ、家を訪れることを歓迎してくれていた。
 清美さんに会ってる時も、二人っきりにしてくれたり、優しい言葉を掛けてくれたのだ。
 祖父母がいなければ、僕はもっと早く死を選んでいたかもしれない。
 僕はずっと耐えていた。清美さんや祖父母がいるのだからと――
 だけど神様は残酷だった。人生は平等じゃ無かったのだ。
 そんな唯一の希望すら僕から奪うように、祖父から電話で清美さんを返さなきゃならなくなったと告げられた。
 その時、僕は何もかもを失った。
 深い損失感の中で、電話の向こうから何度も涙声で謝る祖父の声を聞いていた。
 最後の砦すらなくなった今、もう生きている意味はない。
 僕は自分の人生を終わらせようと思い、祖父の電話を切るなり、その足でふらふらと家を出た。
 気付けばあの遮断機の前にいて、何度も通り過ぎる電車を眺めていた。
 この場所は自殺の名所とされていて、よく飛び込みする人が多かった。
 その中の一人に僕がなるのかと思うと、少しだけ躊躇いも生まれる。
 別に死ぬのが怖いというわけじゃない。ただ、みんなと同じように好きな人がいるというだけで、ここまで蔑ろにされ、異質な目で見られ、イジメられ――そこまでされたのに、復讐もせずに酷い目に遭わせてきた奴らに迷惑のかからない死に方で、本当に良いのかと悩んでいたのだ。

「死にたいんだろ? 大丈夫。一人じゃないよ」

 突然、男の声が聞こえ、僕は驚いて気配のする方へと顔を向ける。
 すぐ隣に若いスーツ姿の男が立っていて、虚ろな目で僕を見ていた。

「辛かっただろ? 苦しかっただろ? 君は一人じゃない。俺たちがいるからね」

 そう言って、男がにたりと笑う。僕はその男から目を離せなかった。

「俺も苦しかった、辛かった。だけど今は幸せだ。仲間もいる。俺の事を分かってくれる仲間がね」

 恐怖はなかった。それどころか、僕でも受け入れてくれるのか、認めてくれるのだろうかと希望が湧く。
 人形に恋をしていても、おかしいと言われないんじゃないかと――

「大丈夫。分かるよ、君の気持ちが痛いぐらいにね」

 僕が何も言っていないのに、男はゆったりとした口調でそう言った。
 気付けば僕の頬を涙が、幾筋も流れていた。
 今まで泣けなかった分の全てが、流れ出しているかのように止まることがなかった。

「……本当に? こんな僕でも?」

 男がカクリと頷く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

パラサイト/ブランク

羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。

【完結】知られてはいけない

ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 (第二回きずな文学賞で奨励賞受賞)

ラヴィ

山根利広
ホラー
男子高校生が不審死を遂げた。 現場から同じクラスの女子生徒のものと思しきペンが見つかる。 そして、解剖中の男子の遺体が突如消失してしまう。 捜査官の遠井マリナは、この事件の現場検証を行う中、奇妙な点に気づく。 「七年前にわたしが体験した出来事と酷似している——」 マリナは、まるで過去をなぞらえたような一連の展開に違和感を覚える。 そして、七年前同じように死んだクラスメイトの存在を思い出す。 だがそれは、連環する狂気の一端にすぎなかった……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

182年の人生

山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。 人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。 二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。 (表紙絵/山碕田鶴)  ※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。本日「64」まで済。

禁忌index コトリバコの記録

藍沢 理
ホラー
都市伝説検証サイト『エニグマ・リサーチ』管理人・佐藤慎一が失踪した。彼の友人・高橋健太は、佐藤が残した暗号化ファイル「kotodama.zip」を発見する。 ファイルには、AI怪談生成ブログ「コトリバコ」、自己啓発オンラインサロン「言霊の会」、そして福岡県██村に伝わる「神鳴り様」伝承に関する、膨大な情報が収められていた。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...