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残傷の冬
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しおりを挟むさすがにイジメられ続け、加えて両親からも心配され、僕は次第に周囲と距離を取るようになった。
石になったように、誰とも接しないようにして、どうしてもグループを作らなきゃいけない時は、余った所に入っていた。
僕は二度と人形に恋してるだなんて言わないし、興味がある素振りも見せなかった。
それなのにも関わらず、中学に上がっても小学校からの繰り上がりの生徒が多く、イジメは続いていた。
知らないはずの人にも、言いふらされたせいでいつのまにか広まっていた。
僕は息を殺すようにして、学校生活を送っていた。
運動会や修学旅行、文化祭は、水風呂に入ったり、わざとお腹を出して寝たりして、風邪を引いてほとんど休んでいた。
ちゃんと熱が出る度に安堵し、仮病だとバレるのが怖かったから必死だった。
プールの授業も、あまり参加していない。
下着を隠されたり、着替えの時に写真を撮られたことがあるからだ。プールで足を引っ張られたり、頭を押さえつけられたりしたこともある。
あのまま溺れ死んでれば、イジメてくる奴らが少しは反省したかもしれない。そんな風に思ったことが何度となくあった。
そんな僕の唯一の救いは、清美さんに会いに祖父母の家に行った時だけだ。
祖父母だけは僕に何も言わなければ、家を訪れることを歓迎してくれていた。
清美さんに会ってる時も、二人っきりにしてくれたり、優しい言葉を掛けてくれたのだ。
祖父母がいなければ、僕はもっと早く死を選んでいたかもしれない。
僕はずっと耐えていた。清美さんや祖父母がいるのだからと――
だけど神様は残酷だった。人生は平等じゃ無かったのだ。
そんな唯一の希望すら僕から奪うように、祖父から電話で清美さんを返さなきゃならなくなったと告げられた。
その時、僕は何もかもを失った。
深い損失感の中で、電話の向こうから何度も涙声で謝る祖父の声を聞いていた。
最後の砦すらなくなった今、もう生きている意味はない。
僕は自分の人生を終わらせようと思い、祖父の電話を切るなり、その足でふらふらと家を出た。
気付けばあの遮断機の前にいて、何度も通り過ぎる電車を眺めていた。
この場所は自殺の名所とされていて、よく飛び込みする人が多かった。
その中の一人に僕がなるのかと思うと、少しだけ躊躇いも生まれる。
別に死ぬのが怖いというわけじゃない。ただ、みんなと同じように好きな人がいるというだけで、ここまで蔑ろにされ、異質な目で見られ、イジメられ――そこまでされたのに、復讐もせずに酷い目に遭わせてきた奴らに迷惑のかからない死に方で、本当に良いのかと悩んでいたのだ。
「死にたいんだろ? 大丈夫。一人じゃないよ」
突然、男の声が聞こえ、僕は驚いて気配のする方へと顔を向ける。
すぐ隣に若いスーツ姿の男が立っていて、虚ろな目で僕を見ていた。
「辛かっただろ? 苦しかっただろ? 君は一人じゃない。俺たちがいるからね」
そう言って、男がにたりと笑う。僕はその男から目を離せなかった。
「俺も苦しかった、辛かった。だけど今は幸せだ。仲間もいる。俺の事を分かってくれる仲間がね」
恐怖はなかった。それどころか、僕でも受け入れてくれるのか、認めてくれるのだろうかと希望が湧く。
人形に恋をしていても、おかしいと言われないんじゃないかと――
「大丈夫。分かるよ、君の気持ちが痛いぐらいにね」
僕が何も言っていないのに、男はゆったりとした口調でそう言った。
気付けば僕の頬を涙が、幾筋も流れていた。
今まで泣けなかった分の全てが、流れ出しているかのように止まることがなかった。
「……本当に? こんな僕でも?」
男がカクリと頷く。
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