咲本翔琉は僕を巻き込む

箕田 はる

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秋の流転

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「そもそもおかしいよな。人形が勝手に動くはずがねぇーのにさ。呪いだとか言って、俺を馬鹿にしてんだろ」
「……そんなわけないじゃん」

 僕が否定するも、高峰は冷めたような顔で笑みを浮かべている。

「殴られたからって、こんな下手な芝居を打つのか? 馬鹿馬鹿しい。家庭科室に呼び出したのも、本当はお前なんだろ?」
「違うよ……僕はただ」
「ふざけんなよっ! 人を馬鹿にしやがって」

 高峰は突然怒鳴ると、家庭科室のドアをバンと開く。
 その瞬間――高峰の右頬を何かが掠めていく。
 カランカランと音を立てて、廊下に転がったのは包丁だった。
 僕は驚いて、うわっと叫ぶ。高峰もその正体に気づき、腰を抜かして尻餅をつく。
 その頭上をまたしても包丁が通過する。

「とにかく謝って!」

 それしかないと、僕は高峰に向かって言う。
 この際、頭の変なやつでも構わない。命には変えられないのだから。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 高峰が悲鳴に近い声で叫ぶ。
 しばらく待ってみて包丁が飛んでこないとこをみると、とりあえずは大丈夫なはずだ。
 僕はそっと家庭科室を覗き見る。ドアの下のところにも、包丁が落ちていた。
 さっきの物音はこれだと、すぐにピンとくる。
 それから僕は人形が調理台に乗っている姿を見つけ、その傍らに置かれた包丁に肝を冷やす。

「僕が責任を持って、君を治すから。だから許して欲しい」

 僕はそう言いながら、ゆっくりと人形に近づく。
 包丁を投げたとは思えないほどに、その人形はピクリとも動かなければ表情も穏やかだった。

「本当にごめんなさい」

 僕はそう言って、ソッとその人形を抱える。
 その時、僕には分かった。
 表情は変わらずとも、人形は泣いていたのだと――



 無事に人形を発見した僕は、咲本に家庭科室に来て欲しいと連絡した。
 すぐに咲本が現れて、散らばっている包丁を前に「ポルターガイストじゃん」と目を輝かせた。
 腰を抜かしている高峰を運んで欲しいと頼むと、すっごく嫌そうな顔をする。

「情けねぇーな」

 そう言いながら肩を貸す咲本に、高峰は何も言わずに掴まる。

「僕は片付けてから、行くから」

 さすがに包丁を散乱したままにはできない。
 それに見つかりでもしたら、どう説明すればいいか分からなかった。

「そうだ、右手はどこ?」

 咲本に支えられながら、立ち去りかけた高峰に僕は聞いた。

「……ああ、そうか」

 高峰は立ち止まって、制服のポケットに手を入れる。
 僕が近づくと、高峰が手のひらに乗せた人形の腕を差し出す。

「色々と疑ったりしてごめん」

 それから「頼む」と、高峰が頭を下げてくる。

「気にしないで。僕だって、今までは信じられなかったからさ」
「お前、おとなしそうに見えて、案外肝が据わってんな」

 高峰の言葉に、僕は苦笑しながら首を横に振る。

「咲本に出会わなかったら、たぶん一生信じなかったと思う」
「俺?」

 咲本が自分を指さす。自覚がないのかと、僕は苦笑する。

「咲本といると、変なことばかり巻き込まれるから」
「別に巻き込んでるつもりねーけど」

 咲本がばつの悪そうな顔をする。
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