咲本翔琉は僕を巻き込む

箕田 はる

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秋の流転

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「私もよく分からないけど……たまに私じゃないかって、言われることがあるから」

 咲本のせいで僕も少しだけ疑っていた。でもこうして話してみて、彼女はただ優しい幽霊なだけだとわかっていた。

「僕は違うって知ってるから。誰かがもし、 君を疑ったら僕が訂正しとくね」

 僕は彼女を慰めるように宣言する。

「あなたって、やっぱり変わってるのね」

 またしても笑んだ彼女に、僕は再び頬に氷水を当てる。
 本当は彼女のことを色々と知りたいと思っていた。だけどそれを聞いて、重大なことを聞けなくなってしまうのも困る。それに彼女が言いたくなくて、二度と姿を見せなくなるのも嫌だった。

「あのさ……聞きたいことっていうのは、人形の場所なんだ」

 僕は気持ちを切り替えて、殴られる原因となった経緯を話す。
 僕の話を聞いている間、彼女の顔が曇る。嫌な予感がしながらも話し終えると、彼女はポツリと「怒ってる」と呟く。

「怒ってるって?」
「あの人形……復讐する気でいる」

 僕は絶句する。だったらやっぱり、いなくなったのも自分の意思でということなのだろうか。

「どこにいるの? 止めなきゃ」

 高峰の所業は許されないことだけど、見過ごすことは出来なかった。
 彼女は思い悩むようにして、黙り込んでしまう。

「……知ってるんだね。どうして教えてくれないの?」
「あの子が可哀想だから」
「僕もそう思う。だけど、高峰も反省してると思うから。それに僕のおじいちゃんの知り合いに、人形を修理できる人がいて直してあげられる。だから、どうか教えてくれないかな」

 僕はそう言って頭を下げる。彼女はしばらく逡巡し、それから一言「家庭科室」と漏らす。
 何故そこに、と僕が疑問を抱いていると、彼女が苦笑した。

「おんなじ目に合わせる気みたい」

 僕は愕然としながらも、彼女に礼を言ってから急いで図書室を後にする。
 別棟にある家庭科室まで、僕は急いで走った。
 文化祭準備中のはずなのに、やたら静まり返っている廊下が不気味だった。
 別棟の階段を上がり、家庭科室に続く直線上の廊下に出た時。前方に高峰の姿を見つけ、僕は慌てて声をかける。
 高峰がドアに手をかけたまま、こちらに振り向く。

「開けちゃダメだ!」

 僕は叫ぶ。高峰が驚いた顔をしながら、こちらを凝視する。
 なんとか高峰のもとについた瞬間――中からバンッという、ドアに何かがぶつかる音がした。
 思わず二人で顔を見合わせる。

「高峰は開けない方がいい」

 僕は呼吸を整えながら訴える。

「なんでだよ」
「中で人形が、高峰と同じ目に合わせようとして待ってるから」

 高峰の顔が青ざめる。

「……そんなわけないだろ」
「じゃあーどうして、こんなところに来たの?」
「それは……呼び出されたからで」
「誰から?」

 そこで高峰は口を閉し、深く考え込み始める。

「あれ? 誰からだっけ……」

 眉間に皺を刻み高峰が動揺する。

「とにかく、僕が先に入って確かめるから」

 僕がドアに手をかけると、「俺を揶揄ってるのか?」と高峰が低い声で言った。

「お前がここに隠して、こんな芝居してんだろ」

 そんな言われ方をされるとは思ってもみず、僕は驚いて固まる。
 高峰の顔は険しく、明らかに怒っているのだと分かった。
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