咲本翔琉は僕を巻き込む

箕田 はる

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秋の流転

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 なぜなら、澄子さんと出会ったときの衝撃や一緒にいる時の胸の高鳴りには劣るのだから。
 僕が否定しているにもかかわらず、咲本は「ふーん」と言って、疑り深い目をする。
 咲本は時々鋭いなぁと思うけれど、そんなのたまたまだろう。

「まぁーいいや。じゃあ、終わったら呼べよ」

 咲本がそう言い残して、教室へと戻っていく。
 僕はその姿を見送ってから、図書室へと続く階段を上がる。
 まだ午後二時過ぎということもあって、校舎には人の姿も目立つ。
 もしかすると、図書室にも人がいるかもしれない。そんな考えが脳裏を過り、僕は不安を覚える。でもそれならそれで、人がいないような場所を探せば良い。
 本当だったら僕も、文化祭の手伝いをするべきだ。だけど、この顔で、それもあんな騒ぎの後で、のうのうと顔を出す勇気がなかったというのもある。
 だったら、人形を探すと啖呵を切った以上は、そちらに着手していた方がマシだった。
 見つからなかったら見つからなかったで、その時は謝るしかないけれど――
 図書室に着くと、僕は緊張した面持ちでドアを開く。ぱっと見た感じでは、人がいなさそうだった。
 司書の先生ぐらいはいるかと思ったけれど、司書室にいるのか見当たらない。
 僕は以前に、出くわした窓際に移動する。
 予想は良い方に的中して、窓辺に腰掛ける女子生徒の姿があった。

「あの……」

 僕が声をかけると、彼女がこちらを見る。

「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど」
「……ごめんなさい」

 彼女が視線を落とす。その目は悲しげなのに、僕はやっぱり綺麗な子だなと見とれてしまう。

「もっと早く、教えてあげられたら良かったんだけど」
「ああ……別に気にしないで」

 氷水のせいで頬がすっかり冷え切っているはずなのに、僕の顔が熱くなる。

「私のせいでしょ?」
「えっ?」
「私が現れると悪いことが起きるって、みんな言うから」
「それは違うよ」

 僕は図書室にもかかわらず、思わず声を張り上げていた。

 慌てて周囲を見渡す。奇跡的に誰もおらず、僕は胸をなで下ろす。

「君が現れるからじゃない。悪いことが起きるのを君が気づいて、現れることが出来るからってだけだよ。それに君は悪いことが起きると、凄く辛そうだし……悪い人じゃないって分かるから」

 つい力説してしまったせいか、彼女は目を丸くして、それからふわりと笑う。

「あなたって、変わってるね」
「……そんなことないよ」
「だって、あなたぐらいよ。私に会いたいって思ってくれるのは」

 僕は恥ずかしさから視線を逸らす。会いたいと思っていたのは確かだけど、まさかその心境に気付かれているとは思ってもいなかった。
「それで? 聞きたいことって何?」

 僕は本来の目的を思い出し、顔を上げる。

「あのさ、君は危険を察知すると、少し前から現れるよね?」

 咲本の時には、百メートル走の段階で現れていた。ということは、僕の時も前々から現れていたはずだ。

「そうね。あなたが放課後、屋上に向かう時から気に掛けてた」
「結構前からだね」
「屋上で落とされそうに、なってたでしょ?」

 僕は感覚を失った右手を下ろす。氷水の冷たさが増したように思ったからだ。

「止めようとしたけど、あなたのお友達が現れたから止められなかったの。だけど止めてくれたから良かった」
「あそこにいたのは人間じゃないよね?」

 咲本に止められた後、姿が消えた以上は生きている人の仕業じゃないように思えた。
 彼女は複雑な表情で頷く。

「不幸を呼ぶ座敷童子」

 その単語は以前、咲本も言っていた。学校内にいて、その座敷童子を見ると不幸な目に遭ってしまうという話だったはずだ。
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