55 / 72
秋の流転
10
しおりを挟む
なぜなら、澄子さんと出会ったときの衝撃や一緒にいる時の胸の高鳴りには劣るのだから。
僕が否定しているにもかかわらず、咲本は「ふーん」と言って、疑り深い目をする。
咲本は時々鋭いなぁと思うけれど、そんなのたまたまだろう。
「まぁーいいや。じゃあ、終わったら呼べよ」
咲本がそう言い残して、教室へと戻っていく。
僕はその姿を見送ってから、図書室へと続く階段を上がる。
まだ午後二時過ぎということもあって、校舎には人の姿も目立つ。
もしかすると、図書室にも人がいるかもしれない。そんな考えが脳裏を過り、僕は不安を覚える。でもそれならそれで、人がいないような場所を探せば良い。
本当だったら僕も、文化祭の手伝いをするべきだ。だけど、この顔で、それもあんな騒ぎの後で、のうのうと顔を出す勇気がなかったというのもある。
だったら、人形を探すと啖呵を切った以上は、そちらに着手していた方がマシだった。
見つからなかったら見つからなかったで、その時は謝るしかないけれど――
図書室に着くと、僕は緊張した面持ちでドアを開く。ぱっと見た感じでは、人がいなさそうだった。
司書の先生ぐらいはいるかと思ったけれど、司書室にいるのか見当たらない。
僕は以前に、出くわした窓際に移動する。
予想は良い方に的中して、窓辺に腰掛ける女子生徒の姿があった。
「あの……」
僕が声をかけると、彼女がこちらを見る。
「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど」
「……ごめんなさい」
彼女が視線を落とす。その目は悲しげなのに、僕はやっぱり綺麗な子だなと見とれてしまう。
「もっと早く、教えてあげられたら良かったんだけど」
「ああ……別に気にしないで」
氷水のせいで頬がすっかり冷え切っているはずなのに、僕の顔が熱くなる。
「私のせいでしょ?」
「えっ?」
「私が現れると悪いことが起きるって、みんな言うから」
「それは違うよ」
僕は図書室にもかかわらず、思わず声を張り上げていた。
慌てて周囲を見渡す。奇跡的に誰もおらず、僕は胸をなで下ろす。
「君が現れるからじゃない。悪いことが起きるのを君が気づいて、現れることが出来るからってだけだよ。それに君は悪いことが起きると、凄く辛そうだし……悪い人じゃないって分かるから」
つい力説してしまったせいか、彼女は目を丸くして、それからふわりと笑う。
「あなたって、変わってるね」
「……そんなことないよ」
「だって、あなたぐらいよ。私に会いたいって思ってくれるのは」
僕は恥ずかしさから視線を逸らす。会いたいと思っていたのは確かだけど、まさかその心境に気付かれているとは思ってもいなかった。
「それで? 聞きたいことって何?」
僕は本来の目的を思い出し、顔を上げる。
「あのさ、君は危険を察知すると、少し前から現れるよね?」
咲本の時には、百メートル走の段階で現れていた。ということは、僕の時も前々から現れていたはずだ。
「そうね。あなたが放課後、屋上に向かう時から気に掛けてた」
「結構前からだね」
「屋上で落とされそうに、なってたでしょ?」
僕は感覚を失った右手を下ろす。氷水の冷たさが増したように思ったからだ。
「止めようとしたけど、あなたのお友達が現れたから止められなかったの。だけど止めてくれたから良かった」
「あそこにいたのは人間じゃないよね?」
咲本に止められた後、姿が消えた以上は生きている人の仕業じゃないように思えた。
彼女は複雑な表情で頷く。
「不幸を呼ぶ座敷童子」
その単語は以前、咲本も言っていた。学校内にいて、その座敷童子を見ると不幸な目に遭ってしまうという話だったはずだ。
僕が否定しているにもかかわらず、咲本は「ふーん」と言って、疑り深い目をする。
咲本は時々鋭いなぁと思うけれど、そんなのたまたまだろう。
「まぁーいいや。じゃあ、終わったら呼べよ」
咲本がそう言い残して、教室へと戻っていく。
僕はその姿を見送ってから、図書室へと続く階段を上がる。
まだ午後二時過ぎということもあって、校舎には人の姿も目立つ。
もしかすると、図書室にも人がいるかもしれない。そんな考えが脳裏を過り、僕は不安を覚える。でもそれならそれで、人がいないような場所を探せば良い。
本当だったら僕も、文化祭の手伝いをするべきだ。だけど、この顔で、それもあんな騒ぎの後で、のうのうと顔を出す勇気がなかったというのもある。
だったら、人形を探すと啖呵を切った以上は、そちらに着手していた方がマシだった。
見つからなかったら見つからなかったで、その時は謝るしかないけれど――
図書室に着くと、僕は緊張した面持ちでドアを開く。ぱっと見た感じでは、人がいなさそうだった。
司書の先生ぐらいはいるかと思ったけれど、司書室にいるのか見当たらない。
僕は以前に、出くわした窓際に移動する。
予想は良い方に的中して、窓辺に腰掛ける女子生徒の姿があった。
「あの……」
僕が声をかけると、彼女がこちらを見る。
「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど」
「……ごめんなさい」
彼女が視線を落とす。その目は悲しげなのに、僕はやっぱり綺麗な子だなと見とれてしまう。
「もっと早く、教えてあげられたら良かったんだけど」
「ああ……別に気にしないで」
氷水のせいで頬がすっかり冷え切っているはずなのに、僕の顔が熱くなる。
「私のせいでしょ?」
「えっ?」
「私が現れると悪いことが起きるって、みんな言うから」
「それは違うよ」
僕は図書室にもかかわらず、思わず声を張り上げていた。
慌てて周囲を見渡す。奇跡的に誰もおらず、僕は胸をなで下ろす。
「君が現れるからじゃない。悪いことが起きるのを君が気づいて、現れることが出来るからってだけだよ。それに君は悪いことが起きると、凄く辛そうだし……悪い人じゃないって分かるから」
つい力説してしまったせいか、彼女は目を丸くして、それからふわりと笑う。
「あなたって、変わってるね」
「……そんなことないよ」
「だって、あなたぐらいよ。私に会いたいって思ってくれるのは」
僕は恥ずかしさから視線を逸らす。会いたいと思っていたのは確かだけど、まさかその心境に気付かれているとは思ってもいなかった。
「それで? 聞きたいことって何?」
僕は本来の目的を思い出し、顔を上げる。
「あのさ、君は危険を察知すると、少し前から現れるよね?」
咲本の時には、百メートル走の段階で現れていた。ということは、僕の時も前々から現れていたはずだ。
「そうね。あなたが放課後、屋上に向かう時から気に掛けてた」
「結構前からだね」
「屋上で落とされそうに、なってたでしょ?」
僕は感覚を失った右手を下ろす。氷水の冷たさが増したように思ったからだ。
「止めようとしたけど、あなたのお友達が現れたから止められなかったの。だけど止めてくれたから良かった」
「あそこにいたのは人間じゃないよね?」
咲本に止められた後、姿が消えた以上は生きている人の仕業じゃないように思えた。
彼女は複雑な表情で頷く。
「不幸を呼ぶ座敷童子」
その単語は以前、咲本も言っていた。学校内にいて、その座敷童子を見ると不幸な目に遭ってしまうという話だったはずだ。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
パラサイト/ブランク
羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。
【完結】知られてはいけない
ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。
他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。
登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。
勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。
一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか?
心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。
(第二回きずな文学賞で奨励賞受賞)
ラヴィ
山根利広
ホラー
男子高校生が不審死を遂げた。
現場から同じクラスの女子生徒のものと思しきペンが見つかる。
そして、解剖中の男子の遺体が突如消失してしまう。
捜査官の遠井マリナは、この事件の現場検証を行う中、奇妙な点に気づく。
「七年前にわたしが体験した出来事と酷似している——」
マリナは、まるで過去をなぞらえたような一連の展開に違和感を覚える。
そして、七年前同じように死んだクラスメイトの存在を思い出す。
だがそれは、連環する狂気の一端にすぎなかった……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
182年の人生
山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。
人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。
二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。
(表紙絵/山碕田鶴)
※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。本日「64」まで済。

禁忌index コトリバコの記録
藍沢 理
ホラー
都市伝説検証サイト『エニグマ・リサーチ』管理人・佐藤慎一が失踪した。彼の友人・高橋健太は、佐藤が残した暗号化ファイル「kotodama.zip」を発見する。
ファイルには、AI怪談生成ブログ「コトリバコ」、自己啓発オンラインサロン「言霊の会」、そして福岡県██村に伝わる「神鳴り様」伝承に関する、膨大な情報が収められていた。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる