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秋の流転
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しおりを挟む「本当に咲本や泉堂が取ったのか? その場面を高峰ないし、他の人が見たりしたのか?」
「でも、他に考えられる人が……」
「見たのか、見てないのか聞いてるんだ」
言い訳を封じるように問い詰められ、高峰がやっと「見てはいないです」と答える。
「咲本、今度は何をしたんだ」
担任が呆れたような目で咲本を見る。
「俺は別に何もやってませんよ。こいつが人形の腕をもぎ取ったから、直してやると言っただけです」
「咲本は人形が直せるのか?」
「俺じゃなくて、祐智のじいちゃんの知り合いに、そういう人がいるだけです」
担任の視線が僕に向けられる。困ったような戸惑ったような顔をしていた。
「それは本当か?」
僕は「はい」と返事する。
「盗んだというのは、本当か?」
「すいません……盗んでません」
あの場は必死でそんなことを言ったけれど、結局は物的証拠がなければ立証はできない。それに僕が盗んだと通したところで、物が出てこなければ意味がなかった。
「なんで、盗んだなんて嘘を吐いたんだ」
「咲本が疑われているのを見てられなかったんです。この間の件も、僕のせいで咲本が停学になりそうになったので……」
それから僕は、担任にこの間の事件について話をした。
僕がからかわれたのを咲本が庇ってくれたのだと。
担任は複雑な顔で僕の話を聞いた。
「まぁーともかく、人形は先生も探そう。高峰も無闇に人を疑わないように。それから人形の手足をもぐだなって、残酷な真似はやめなさい」
さすがに担任から怒られたこともあって、高峰もシュンとしている。
担任が指導室のドアを開けたことで、解散する空気になる。
担任は職員室に戻るらしく、僕たち三人だけで教室へと戻ることになった。
「顔が腫れてんじゃんか。保健室行くぞ」
咲本が僕の右のほっぺに手を当てる。
「触らないでよ。痛いから」
僕が顔を顰めると、咲本が手を離す。
「泉堂……ごめんな」
僕たちのやり取りを見ていた高峰が、遠慮がちに言ってくる。
「おい、俺には?」
驚いている僕の横で、咲本が不機嫌そうに言う。
「……咲本も」
不服そうながらも、高峰が謝罪を口にする。
「俺は別に良いけどよー祐智の無罪をみんなに訂正しとけよ」
良いならなんで謝罪させたんだと、僕は咲本を見る。同じく高峰もそう思ったらしく、眉を顰めている。
「ほら、行くぞ」
咲本一人だけが、気にした様子もなく促してくる。
「一人で行けるよ」
僕たちが揉めたことで、文化祭の準備に遅れが出ているかもしれない。それならば、咲本も戻った方が良いはずだ。
「俺のせいで、祐智が殴られたんだ。最後まで面倒見るのが筋ってもんだろ」
そう言われてしまえば、反論できない。
僕は諦めて咲本と共に、保健室に向かった。
初めての保健室で僕は保健師さんに驚かれながらも、氷水を貰う。家に帰ることも勧められたけど、僕にはやることがあった。
「本当に、大丈夫なのか?」
僕の隣を歩きながら咲本が聞いてくる。
「大丈夫。多分、僕一人じゃないと出てきてくれないと思うから」
僕はあの女子生徒に、会いに行こうと思っていた。
だけど咲本がいたら、もしかしたら現れてくれないかもしれない。だから、咲本には先に教室に戻ってくれるようにお願いしたのだ。
「図書室の前で待ってようか?」
「いいよ。僕の分まで手伝って来て」
僕がそう言って追っ払うとすると、咲本が探るような目で僕を見た。
「まさかと思うけど、その子に惚れてたりしないよな? 澄子さんという人がありながら」
「そんなわけないじゃん」
ドキッとしたけれど、僕はいたって冷静に否定した。
綺麗だなと思ったし、ちょっと良いなと思ったのは確かだけど……恋愛感情というまでに至ってはいないはずだ。
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