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秋の流転
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しおりを挟む「なんで? お化け屋敷で使うんだけど」
「やめとけ。呪われるぞ」
さらに僕の肝が冷える。単刀直入過ぎて、高峰の顔が強張る。
「……そんなわけないじゃん」
「良いのか? 一度しか言わねぇーぞ。後でどうなってもしんねぇーからな」
高峰は黙り込む。咲本は返事が来ないとみると、大きく息を吐いて僕に「行くぞ」と立ち去るように促す。
僕は引き下がりたくはなかったけれど、注目を浴びている中で口を開けそうになかった。
仕方なく僕は咲本の後に続く。
自分たちの持ち場に戻ると、咲本が膨れっ面になっていた。
「これじゃあーヒントがねぇーな」
「あのさ……人形を治すのが最優先だからね」
「わーかってるって。俺はそんな薄情じゃねぇ」
そう言った後に咲本は「どんな声だったんだ? どこから聞こえてきたんだ?」と僕に聞いてきた。
結局、好奇心じゃんか。
僕はそう思いつつも、思い出そうと記憶を辿ったのだった。
「教室に響く感じで、女の声だったんだな」
僕はうろ覚えながらも頷く。
暗幕をボードに貼りながら、僕は咲本にあの時の状況をもう一度伝えていた。
だけど一瞬の出来事だったし、あまりちゃんとは把握できてない。
咲本が考え込んでいる間に、僕は指揮を取る委員長の指示に従いながらボードを動かす作業に回ることにした。
これで簡易的な迷路を作るのだ。
ある程度の位置が決まると、今度はこのボードに別の部隊が装飾を加える。
だからこそ、うかうかしていられない。早くしないと先が進まないのだから。
それなのに咲本は結局、僕が終わるまで戻ってこなかった。
何してるんだろうと、出来上がりつつある迷路を抜けて、廊下に出ようとした時――廊下から何やら揉めている声が聞こえてくる。
嫌な予感がしながらも、僕は廊下へと出る。
予想は見事に的中していて、そこには咲本と高峰が対峙していた。
「祐智」
僕を見つけると、咲本が怖い顔で僕を呼ぶ。
近くにいた人が僕の方を見る。僕は恐々とした足取りで咲本に近づく。
「お前、俺のそばにずっといたよな?」
僕は首を縦に動かす。
「泉堂もグルだろ。証人にはならねーよ」
高峰が唾を飛ばす勢いで叫ぶ。
いったい何が起きたのか分からなかった僕は、ただ呆気に取られる。
孤田が僕に近づき、「なんか高峰が人形を盗まれたって言ってて」と教えてくれる。
「僕たちが盗むわけないじゃん」
あの人形が可哀想だという気持ちはあれど、黙って盗むような真似はするはずがなかった。
一瞬、眞嶋達の事が頭を過る。だけど彼らは今日ここにはいないのだから、あり得ない話だった。
「じゃあーなんでねぇんだよ。お前らぐらいしか、考えられねぇよ」
「俺たちはただ聞いただけだろうが。盗むんなら最初からなんも言わねーよ。それにお前があんな扱いしたから、逃げ出したんじゃねーのか」
普段滅多に怒らない咲本が、この時ばかりは語気が荒い。
「ふざけんなよ。俺が渡さなかったからって、嫌がらせしたんだろ。てか、そんなにお人形が可哀想なのかよ。高校生にもなって、お人形遊びとはずいぶんだな」
さらにヒートアップした高峰が、怒鳴り散らす。
「意味分かんねぇ。物を大事に出来ないなんて、幼稚園からやり直した方が良いんじゃねぇのか。てか、そんなことでしか、注目浴びれねぇような低俗に、犯人呼ばわりされたくねーよ」
咲本の挑発に、高峰が「ふざけんな」と言って殴りかかろうとする。
今度咲本が問題を起こせば停学になるかもしれない。
僕は咄嗟に「やめて」と叫んで、高峰と咲本の間に入る。
そのまま高峰の拳が僕の頬を打ち、僕の視線が右に飛ぶ。
強烈な痛みと同時に一瞬、視界に入った先にはあの時――咲本が騎馬戦で落ちたときにいた、女子生徒がいた。
驚きに開かれた目は、完全に僕の方を見ていた。
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