咲本翔琉は僕を巻き込む

箕田 はる

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秋の流転

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 僕はもちろん、他の誰も名乗り出ない。

「おい、どうしたんだ?」

 そこでやっと咲本が戻ってくる。暗幕を手に持っていて、これを持ってくるように頼まれたのだろう。
 僕は簡単に事のあらましを伝える。
 咲本は「自業自得だろ」と言ってから僕に、「ほらそっち側持て」と暗幕の端を渡してくる。
 僕はまだ震える手でそれを受け取り、咲本ともにキャスター付きボードに貼り付けていく。
 次第に他の生徒も、自分の作業に戻った。
 その後、高峰がその人形をどうしたのか分からない。
 ただ、僕の胸はずっとモヤモヤしていたのは確かだった。



 作業が順調に進み、お昼休憩にはある程度の体裁が整っていた。徐々に雰囲気の出てきたお化け屋敷を前に、別のクラスの生徒が覗き込んでくることもあった。

「昼食いにいくか」

 咲本に誘われ、僕たちは屋上へと向かう。
 正直、僕は屋上に行くのは控えたかった。咲本の件もあるけれど、それ以上にあの夕日に浮かんだ影の存在が怖かったのだ。

「へーきへーき。俺の心配はするなよ」

 僕が浮かない顔をしているのに気づいたのか、咲本があっけからんと言う。

「別に咲本が心配だからじゃないよ」

 何だか癪に触って、僕は否定する。

「じゃあー、さっきのことか?」

 結局は屋上に出ながら、秋の風に身を浸す。

「……うん。見ていながらも、止められなかったから」

 給水塔の前に腰を下ろして、僕は自分の心の蟠りを口にする。
 咲本相手とはいえ、やっぱりなんでも言える相手であることは違いなかった。

「過ぎたことを気にしてもしょうがねーよ。後悔したことを、またしなきゃ良いだけだ。次はちゃんと止めれば良い」

 それから咲本が、肩掛け鞄からコロッケパンを取り出す。

「澄子さんに顔向けできないよ。助けてくれたのに」
「祐智」

 僕は重たい顔を上げて、咲本の方を見る。
 真顔で僕を見つめる咲本に、僕は何を言われるのかとドキッとした。

「そうやって過去を嘆く方が、澄子さんは嫌だと思うぞ」

 咲本の言葉なのに、僕はハッとしていた。

「澄子さんは前に進んでほしいって思ってるんだ。だから――」

 僕は初めて、咲本を期待を込めた目で見ていた。

「声の正体を探るべきだ」
「へっ?」
「もし、声の正体があの人形だとしたら、澄子さんの仲間かもしれねーじゃん」

 咲本がコロッケパンを齧る。表情は冷静そのものだけど、その目には好奇心も混じっていたように見える。
 悪い癖が始まった。僕はやっぱり、咲本は咲本でしかないと呆れていた。

「そんなわけないじゃん」
「分からないだろ。それに祐智のじーちゃんは、人形を集めるのが趣味なんだろ? だったらその繋がりでルーツが分かるかもしれねぇし、もがれた腕も治るかもしんないぞ」

 確かにあのままでは、可哀想であることは否定できない。

「それに後悔してるんだろ? 挽回するチャンスでもあるだろ」
「治してあげたいのは山々だけど……貸してくれるかなぁ」
「馬鹿じゃなきゃ、少しは罪悪感があるだろ。それにこっちは手を差し伸べてやるんだから、断る道理はない」

 僕は作ってきたおにぎりを食べながら頷く。
 声の件は置いておいて、修理するのは賛成だった。
 罪悪感に駆られていた僕は少しだけ、気持ちが軽くなる。
 おにぎりを食べ終えると、僕は早速おじいちゃんに電話した。
 咲本の読み通り、知り合いに人形の修繕をしてる人がいると分かり、僕はほっとした。
 それから咲本と一緒に教室に戻ると、数人の生徒と昼を食べている高峰を見つけ出す。

「高峰」

 咲本が声をかけると、談笑していた高峰が振り返る。

「さっきの人形、直してやるから貸せよ」

 もっと丁寧な言い方が出来ないのかと、僕は後ろでハラハラしていた。
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