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秋の流転
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しおりを挟む文化祭の前日となり、教室が丸々お化け屋敷の様相に変わりつつあった。
あれから眞嶋達が僕に絡むことはなくなった。けれど、たまに睨んでは来ていることは、何となく察していた。
咲本からは何かあったら言えと言われているし、睨まれるぐらいなら無視しとけば良いと言っていた。
確かにすぐにどうすることも出来ないし、何か被害があったわけじゃない。仕方なく僕は静観を決め込むことにした。
それに今日しても、三人は面倒くさいという理由から姿を消していた。だけど、みんなそんなこと承知の上なのか、誰も何も言わない。
一見平和なようにも思える。
だけど、問題はまたしても起きていた。
「ただ置いとくだけでもいいけど、血糊とか塗ったら良いんじゃない?」
小道具として用意された日本人形を前にして、どう恐怖演出するか話し合いが一部で行われていたからだ。
「でも汚すのは可哀想じゃない?」
女子生徒の一言に、僕も激しく同意した。
「別に良いだろ。押し入れに眠ってたやつだし。終わったら捨てとくからさ」
「バラバラにするのとかどう? あっ、人形の体を探せというミッションがあったら面白いんじゃね」
僕の顔は一気に血の気が引く。どうしてそんな残酷なことが言えるのだろう。チラリと見ると、よく見かける和製の日本人形が僕の方を見ていた。
赤い着物を着ていて、お下げ髪が似合う色白の顔立ちをしていた。
無垢な表情を浮かべている彼女は、これからどんな目に遭わされるのか分かっていないようにも見える。
僕は救いを求めるように、周囲を見渡す。 こういう時に限って、咲本の姿が見当たらない。
どうしたら良いのか分からず、途方に暮れているうちに、話はどんどん進んでいく。
「でもさー、呪われたらどうするの? 人形って魂が宿るっていうし」
「あり得ないあり得ない。そんなのにビビってたら、ホラー映画の演出とか出来ないだろ」
「だったら、高峰やれよ。お前のだし、それに呪われねぇんだろ?」
けしかけるような言い方に、高峰が「やってやるよ」と言い出す。
「ねぇーやめなよ」
先程から否定的な女子生徒が、止めようとする。
僕も間に入るべきか悩んでいた。
でも今まで見てたのに、急に乱入するのはどうなのか。またおかしい奴だと目をつけられるかもしれない。いつもは石のような存在の自分が、急に人形の窮地に出しゃばったら、みんな不思議に思うはずだ。
自分の保身を守るべきか、人形の運命を守るべきなのか。
ふいに澄子さんのことを思い出す。彼女の仲間でもあるのに、僕が止めなかったらきっと幻滅するはずだ。
澄子さんは僕を助けてくれたのに、僕が助けないわけにはいかない。
僕は意を決して、止めようとして立ち上がる。そちらに向かったのと同時に、高峰が人形の腕を引きちぎった。
「うわー」
女子生徒だけでなく、けしかけた男子生徒までもが苦い顔をする。
腕が取れたにも関わらず、人形は表情を変えることはない。その肩から抜けた手を持って、高峰がニヤリと笑う。
「見ろよ、綺麗に取れたぞ。足もいってみるか」
高峰が人形の足に手をかける。僕が今度こそ止めようとした瞬間――
「やめてっ!!」
誰かが叫ぶ。教室が騒然となり、僕も呆気に取られていた。
高峰が驚いたように左右を見渡す。
「今の誰?」
女子生徒が怯えた声を出す。
「あーぁ、高峰呪われたな」
高峰の顔色が一気に青ざめる。
「誰かがふざけただけだろ。おい、今の誰だよ?」
高峰が教室にいる生徒に向かって叫ぶ。
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