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秋の流転
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しおりを挟む薄暗い廊下を歩き、僕は慣れた足取りで屋上に向かう階段を上がる。
屋上の重い鉄扉を押すと、秋風が全身を包み込む。
眩しいぐらいの夕日に、僕は目を細めた。
端の部分に人影を見つけ、僕はそちらに向かって歩みを進める。
逆光のせいで、咲本の表情どころか顔が分からない。
それよりも一歩踏み出せば落ちてしまうような、危うい場所に佇んでいる姿が何だか異様だった。
「鞄持ってきたよ」
僕がそちらに向かっていこうとすると、咲本が手招きする。ゆっくりとした手の動きが、以前見た影女の動作に似ていた。
僕はそこで、あれは本当に咲本なのかという疑問が過ぎった。
明らかに様子がおかしい。ジョークにしては笑えない。
「咲本?」
僕はさらに歩みを進める。あともう少しで顔が見えるというところで、背後から「祐智」と呼ばれる。
明らかな咲本の声に驚き振り返ると、そこには不思議そうな顔をした咲本がいた。
「あれ?」
僕はさっき咲本がいた場所に振り返る。だけどそこには誰もいなかった。
「大丈夫か?」
「さっきそこに、咲本いなかった?」
「俺はそこにはいなかったぞ。あっちの給水塔のとこに、ずっといたんだからな」
それから咲本は「また見たのか」と呆れた顔をする。
「あのまんま進んでたら、落ちてたかもしれねぇーぞ。なんかお前って、厄介なやつに好かれるんだな」
憐れんだ目で見てくる咲本に、その一人だからなと僕は思う。
「やっぱり、俺がそばにいないとダメだな」
「どっちかというと、咲本のそばに居る方が悪化してる気がする」
「それはねぇーよ。気のせいだ」
僕から鞄を受け取ると、肩に斜めがけする。
「そうだっ! そういえば大丈夫だったの?」
僕は重大なことを思い出し、咲本に詰め寄る。
「まぁー、なんとかな。喧嘩両成敗ってことで、今回は許してもらえた」
僕はホッとして、肩の力を抜く。
「今回はってことは、次はないってことでしょ? 僕が言い返せなかったのが悪いけど、咲本も挑発するのはよくないよ」
「挑発じゃねーよ。あっちが仕掛けてきたから、まんま返しただけだろ」
「違うの一言で済んだはずじゃん」
わざわざ余計なことを言う必要はなかったはずだ。
僕は反論し、余計な一言によって人生が変わってしまった身なのだ。
だからこそ、人と話すことが怖かった。僕の発言で、事が悪化するかもしれない恐怖があったからだ。
「否定したところで引き下がるような、頭のいいやつじゃねーよ。人を揶揄って楽しんでるような奴には、同じように返してやるのが一番なんだよ」
咲本は「帰るぞ」と言って、さっさと屋上の鉄扉を開く。
「ここにいるってバレたら、今度こそ停学は免れないからな」
「だったら、別の場所に呼んでよ」
僕は慌てて咲本の後に続く。
あの影の正体は分からないけれど、僕にはどうすることもできなかった。
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