咲本翔琉は僕を巻き込む

箕田 はる

文字の大きさ
上 下
49 / 72
秋の流転

4

しおりを挟む

 薄暗い廊下を歩き、僕は慣れた足取りで屋上に向かう階段を上がる。
 屋上の重い鉄扉を押すと、秋風が全身を包み込む。
 眩しいぐらいの夕日に、僕は目を細めた。
 端の部分に人影を見つけ、僕はそちらに向かって歩みを進める。
 逆光のせいで、咲本の表情どころか顔が分からない。
 それよりも一歩踏み出せば落ちてしまうような、危うい場所に佇んでいる姿が何だか異様だった。

「鞄持ってきたよ」

 僕がそちらに向かっていこうとすると、咲本が手招きする。ゆっくりとした手の動きが、以前見た影女の動作に似ていた。
 僕はそこで、あれは本当に咲本なのかという疑問が過ぎった。
 明らかに様子がおかしい。ジョークにしては笑えない。

「咲本?」

 僕はさらに歩みを進める。あともう少しで顔が見えるというところで、背後から「祐智」と呼ばれる。
 明らかな咲本の声に驚き振り返ると、そこには不思議そうな顔をした咲本がいた。

「あれ?」

 僕はさっき咲本がいた場所に振り返る。だけどそこには誰もいなかった。

「大丈夫か?」
「さっきそこに、咲本いなかった?」
「俺はそこにはいなかったぞ。あっちの給水塔のとこに、ずっといたんだからな」

 それから咲本は「また見たのか」と呆れた顔をする。

「あのまんま進んでたら、落ちてたかもしれねぇーぞ。なんかお前って、厄介なやつに好かれるんだな」

 憐れんだ目で見てくる咲本に、その一人だからなと僕は思う。

「やっぱり、俺がそばにいないとダメだな」
「どっちかというと、咲本のそばに居る方が悪化してる気がする」
「それはねぇーよ。気のせいだ」

 僕から鞄を受け取ると、肩に斜めがけする。

「そうだっ! そういえば大丈夫だったの?」

 僕は重大なことを思い出し、咲本に詰め寄る。

「まぁー、なんとかな。喧嘩両成敗ってことで、今回は許してもらえた」

 僕はホッとして、肩の力を抜く。

「今回はってことは、次はないってことでしょ? 僕が言い返せなかったのが悪いけど、咲本も挑発するのはよくないよ」
「挑発じゃねーよ。あっちが仕掛けてきたから、まんま返しただけだろ」
「違うの一言で済んだはずじゃん」

 わざわざ余計なことを言う必要はなかったはずだ。
 僕は反論し、余計な一言によって人生が変わってしまった身なのだ。
 だからこそ、人と話すことが怖かった。僕の発言で、事が悪化するかもしれない恐怖があったからだ。

「否定したところで引き下がるような、頭のいいやつじゃねーよ。人を揶揄って楽しんでるような奴には、同じように返してやるのが一番なんだよ」

 咲本は「帰るぞ」と言って、さっさと屋上の鉄扉を開く。

「ここにいるってバレたら、今度こそ停学は免れないからな」
「だったら、別の場所に呼んでよ」

 僕は慌てて咲本の後に続く。
 あの影の正体は分からないけれど、僕にはどうすることもできなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

パラサイト/ブランク

羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。

【完結】知られてはいけない

ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 (第二回きずな文学賞で奨励賞受賞)

ラヴィ

山根利広
ホラー
男子高校生が不審死を遂げた。 現場から同じクラスの女子生徒のものと思しきペンが見つかる。 そして、解剖中の男子の遺体が突如消失してしまう。 捜査官の遠井マリナは、この事件の現場検証を行う中、奇妙な点に気づく。 「七年前にわたしが体験した出来事と酷似している——」 マリナは、まるで過去をなぞらえたような一連の展開に違和感を覚える。 そして、七年前同じように死んだクラスメイトの存在を思い出す。 だがそれは、連環する狂気の一端にすぎなかった……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

182年の人生

山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。 人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。 二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。 (表紙絵/山碕田鶴)  ※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。本日「64」まで済。

禁忌index コトリバコの記録

藍沢 理
ホラー
都市伝説検証サイト『エニグマ・リサーチ』管理人・佐藤慎一が失踪した。彼の友人・高橋健太は、佐藤が残した暗号化ファイル「kotodama.zip」を発見する。 ファイルには、AI怪談生成ブログ「コトリバコ」、自己啓発オンラインサロン「言霊の会」、そして福岡県██村に伝わる「神鳴り様」伝承に関する、膨大な情報が収められていた。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...