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秋の流転
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「今行ったところで、担任は話聞かねぇーぞ。とりあえず、当事者同士から話聞くだろうしな。話すなら、それが済んでからの方がいい」
違うか? と言われ、僕はペタンと腰を落とす。
「僕が悪いんだ。ちゃんと言い返せなかったから」
「気にすんなって。お前が反論したって、眞嶋は面白がるだけだ。それにお前が大人しいのを分かってるから、咲本も俺に言ってきたんだろーし」
孤田が僕の背をポンポン叩く。
「それより終わらないと帰れないんだからな。咲本に悪いって思うなら、咲本の分まで進めといてやるのが恩返しだと思うぞ」
「……うん。孤田もありがとう」
孤田も僕のために、盾になってくれたのだ。僕は孤田の方を見て、精一杯の礼を言う。
「別に良いって……てか、名前覚えててくれたんだな」
孤田が何故か照れたような顔をする。
「覚えてるに決まってるじゃん」
「なんか……祐智って、咲本以外はその他大勢みたいな括りかと思ってたからさー」
「……そんなことないよ」
自分でも納得したくなくて、僕は否定した。
だけど言われてみれば、そうかもしれない。
咲本だからじゃなくとも、僕は人とあまり関わりたくない。だから自然と、僕自身がシャットアウトしてるのかもしれない。
「俺だって祐智と仲良くしたいんだ。咲本ばっかしじゃなくて、俺にもたまには絡んでくれよな」
照れているのか、孤田は別の方向を見ている。確かにこの歳で友達になろうだなんて言うのは、相当な勇気が必要なはずだ。
「うん」
僕も照れながら頷く。
そのあと作業を再開していると、通りかかった他の生徒からも「気にすることないよ」と口々に言われる。
その度に、自分の狭心さを思い知った。
周囲の人が僕を理解してくれることなど一生ないだなんて思っていたけれど、僕の方こそ他人を理解していなかったのだ。
看板を書き終え時計を見ると、すでに六時を回っていた。
窓の外は真っ赤で、夕日が支配する世界と化しているみたいだった。
「残りは明日にしよう」
委員長がそう言い出したことで、そこら中から疲れ混じりのため息が聞こえた。
「咲本たち、戻ってこなかったな」
孤田が額の汗を拭う。僕は不安になってスマホを見る。
そこにメッセの通知があり、慌てて開くと咲本からだった。
「咲本?」
覗き込んでくる孤田に頷く。
「終わったら鞄持ってきてだって」
僕は『どこに居るの?』と返事を送る。
『屋上』
すぐに返事が来て、僕は端によけられている机から咲本の鞄を探す。
咲本の見慣れた肩掛け鞄を手に取ると「片付けとくから行ってこいよ」と、孤田が看板片手に僕に言った。
「えっ? でも……」
「心配なんだろ? 咲本も心細いだろーし、お前が行ってやったほうがいいからさ」
「……ありがとう」
僕は本日二度目のお礼を口にする。こんなにも咲本以外と喋ったのは、何年ぶりだろうか。
「じゃあーこの借りは、今度遊びに行った時の奢りで」
孤田が冗談めいた口調で、片手を上げる。
僕はその姿に苦笑しながら教室を出た。
違うか? と言われ、僕はペタンと腰を落とす。
「僕が悪いんだ。ちゃんと言い返せなかったから」
「気にすんなって。お前が反論したって、眞嶋は面白がるだけだ。それにお前が大人しいのを分かってるから、咲本も俺に言ってきたんだろーし」
孤田が僕の背をポンポン叩く。
「それより終わらないと帰れないんだからな。咲本に悪いって思うなら、咲本の分まで進めといてやるのが恩返しだと思うぞ」
「……うん。孤田もありがとう」
孤田も僕のために、盾になってくれたのだ。僕は孤田の方を見て、精一杯の礼を言う。
「別に良いって……てか、名前覚えててくれたんだな」
孤田が何故か照れたような顔をする。
「覚えてるに決まってるじゃん」
「なんか……祐智って、咲本以外はその他大勢みたいな括りかと思ってたからさー」
「……そんなことないよ」
自分でも納得したくなくて、僕は否定した。
だけど言われてみれば、そうかもしれない。
咲本だからじゃなくとも、僕は人とあまり関わりたくない。だから自然と、僕自身がシャットアウトしてるのかもしれない。
「俺だって祐智と仲良くしたいんだ。咲本ばっかしじゃなくて、俺にもたまには絡んでくれよな」
照れているのか、孤田は別の方向を見ている。確かにこの歳で友達になろうだなんて言うのは、相当な勇気が必要なはずだ。
「うん」
僕も照れながら頷く。
そのあと作業を再開していると、通りかかった他の生徒からも「気にすることないよ」と口々に言われる。
その度に、自分の狭心さを思い知った。
周囲の人が僕を理解してくれることなど一生ないだなんて思っていたけれど、僕の方こそ他人を理解していなかったのだ。
看板を書き終え時計を見ると、すでに六時を回っていた。
窓の外は真っ赤で、夕日が支配する世界と化しているみたいだった。
「残りは明日にしよう」
委員長がそう言い出したことで、そこら中から疲れ混じりのため息が聞こえた。
「咲本たち、戻ってこなかったな」
孤田が額の汗を拭う。僕は不安になってスマホを見る。
そこにメッセの通知があり、慌てて開くと咲本からだった。
「咲本?」
覗き込んでくる孤田に頷く。
「終わったら鞄持ってきてだって」
僕は『どこに居るの?』と返事を送る。
『屋上』
すぐに返事が来て、僕は端によけられている机から咲本の鞄を探す。
咲本の見慣れた肩掛け鞄を手に取ると「片付けとくから行ってこいよ」と、孤田が看板片手に僕に言った。
「えっ? でも……」
「心配なんだろ? 咲本も心細いだろーし、お前が行ってやったほうがいいからさ」
「……ありがとう」
僕は本日二度目のお礼を口にする。こんなにも咲本以外と喋ったのは、何年ぶりだろうか。
「じゃあーこの借りは、今度遊びに行った時の奢りで」
孤田が冗談めいた口調で、片手を上げる。
僕はその姿に苦笑しながら教室を出た。
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