47 / 72
秋の流転
2
しおりを挟む「……付き合ってるって? どういう意味?」
「とぼけんなよ。いっつもベタベタしてんじゃねーか」
僕は血の気が引く思いがして、「そんなことないよ」と震える声で否定する。
「おいおい、やめろよ。祐智がびびってんじゃんか」
見かねた孤田が、間に入ってくれる。
「なんだよ、咲本のしもべ。今度は姫の護衛かよ。お前だって、変だと思うだろ? あいつが彼女も作らずに、こいつにベッタリなの」
「良いだろ。別に。友人なら、一緒にいたいって思うじゃんか」
俯いたまま黙る僕とは違って、孤田が果敢にも言い返す。
僕は少しだけ、孤田を見直していた。
「はぁ? どう見たって、友人以上の関係じゃねぇか」
「それがお前と何の関係があるんだよ」
孤田の言うとおりだと分かっていても、僕の心はキリキリと痛んだ。
「目障りなんだよ。気色わりー」
「主観的な問題を押しつけんなよ。それに言うなら咲本に言えよ」
孤田が負けじと反論を続ける。
僕はさらに情けなくなる。どうしてきっぱりと「うるさい。関係ないだろ」と言えないのか。
僕が言いさえすれば、無関係な孤田が巻き込まれずにすむはずなのに。
でもそれ以上に僕は息が苦しくなり、視界がぐるぐる回っていた。聞こえないはずの嘲笑が聞こえ、吐き気すらしてくる。
僕は手で口を覆う。悪寒がして冷たい汗が止まらなかった。
我慢できなくなり、僕が教室から出て行こうとしたところで「おい」と声がした。
「あっ、咲本」
まるで救世主が現れたとばかりに、孤田が声を上げる。
「何してんだよ」
咲本が眞嶋に詰め寄る。さっきまでざわついていた教室がシーンと静まり、成り行きを見守っている気配がした。
「お前らの関係をこいつに聞いてただけだ」
「関係?」
咲本が怪訝な声を出す。
「付き合ってるのかってことだよ。年がら年中、イチャついてるだろ。事実確認しようと思ってな」
眞嶋の顔を見ずとも、どう弄ってやろうかという下卑た笑みをしているのが分かる。
咲本がどう答えるのか、僕は正直怖かった。
変なことを言って、火に油を注ぐことになるんじゃないかと。素直に違う、ただの友達だと言ってくれれば良いと僕はハラハラしていた。
「はぁ? 別にお前にかんけぇねーじゃん。てか、お前だって人のこと言えなくねぇ?」
今度は眞嶋が眉間に皺を寄せる。
「二人も引き連れて、一夫多妻か? ここは日本だから一人しか結婚できねーぞ」
「ちげぇーよ! 馬鹿じゃねぇの」
眞嶋が怒鳴る。近くにあった机を蹴ったことで、女子が悲鳴をあげる。
「おいおい。オマエらも良いのか? こんな暴力亭主のそばにいてさ」
後ろにいた取り巻きに向けて、ニヤニヤする咲本。僕は今にも気絶しそうだった。
逃げようにもすっかり腰が抜けていて、地べたから腰を上げられない。
今にも掴みかかってきそうな勢いで、眞嶋が咲本の方へと近づく。
胸ぐらをつかもうとした瞬間――咲本がその腕を捻りあげる。
途端に眞嶋が苦痛の声を上げた。
「おい! お前たち」
そこでやっと担任が教室に入ってくる。
咲本が手を離して、眞嶋が取られた腕をさすった。
「二人とも来い」
教師に連行される形で、咲本と眞嶋が教室から出て行く。
今のを見ただけでは明らかに、咲本の分が悪い。
僕は立ち上がろうとするも、足が震えて立てなかった。
「大丈夫か?」
隣にいた孤田が、僕の肩に手を置く。
「僕のせいだ……行かなくちゃ」
これで退学にでもなったらと思うとゾッとした。僕は孤田を押しやり、這ってでも行こうとする。
「待て待て」
孤田が僕の腕を掴む。
「離してっ」
「まぁ、落ち着けって」
孤田が僕を宥めてくる。それでも僕は不安に駆られていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
パラサイト/ブランク
羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。
【完結】知られてはいけない
ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。
他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。
登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。
勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。
一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか?
心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。
(第二回きずな文学賞で奨励賞受賞)
ラヴィ
山根利広
ホラー
男子高校生が不審死を遂げた。
現場から同じクラスの女子生徒のものと思しきペンが見つかる。
そして、解剖中の男子の遺体が突如消失してしまう。
捜査官の遠井マリナは、この事件の現場検証を行う中、奇妙な点に気づく。
「七年前にわたしが体験した出来事と酷似している——」
マリナは、まるで過去をなぞらえたような一連の展開に違和感を覚える。
そして、七年前同じように死んだクラスメイトの存在を思い出す。
だがそれは、連環する狂気の一端にすぎなかった……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
182年の人生
山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。
人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。
二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。
(表紙絵/山碕田鶴)
※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。本日「64」まで済。

禁忌index コトリバコの記録
藍沢 理
ホラー
都市伝説検証サイト『エニグマ・リサーチ』管理人・佐藤慎一が失踪した。彼の友人・高橋健太は、佐藤が残した暗号化ファイル「kotodama.zip」を発見する。
ファイルには、AI怪談生成ブログ「コトリバコ」、自己啓発オンラインサロン「言霊の会」、そして福岡県██村に伝わる「神鳴り様」伝承に関する、膨大な情報が収められていた。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる