咲本翔琉は僕を巻き込む

箕田 はる

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秋の流転

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「……付き合ってるって? どういう意味?」
「とぼけんなよ。いっつもベタベタしてんじゃねーか」

 僕は血の気が引く思いがして、「そんなことないよ」と震える声で否定する。

「おいおい、やめろよ。祐智がびびってんじゃんか」

 見かねた孤田が、間に入ってくれる。

「なんだよ、咲本のしもべ。今度は姫の護衛かよ。お前だって、変だと思うだろ? あいつが彼女も作らずに、こいつにベッタリなの」
「良いだろ。別に。友人なら、一緒にいたいって思うじゃんか」

 俯いたまま黙る僕とは違って、孤田が果敢にも言い返す。
 僕は少しだけ、孤田を見直していた。

「はぁ? どう見たって、友人以上の関係じゃねぇか」
「それがお前と何の関係があるんだよ」

 孤田の言うとおりだと分かっていても、僕の心はキリキリと痛んだ。

「目障りなんだよ。気色わりー」
「主観的な問題を押しつけんなよ。それに言うなら咲本に言えよ」

 孤田が負けじと反論を続ける。
 僕はさらに情けなくなる。どうしてきっぱりと「うるさい。関係ないだろ」と言えないのか。
 僕が言いさえすれば、無関係な孤田が巻き込まれずにすむはずなのに。
 でもそれ以上に僕は息が苦しくなり、視界がぐるぐる回っていた。聞こえないはずの嘲笑が聞こえ、吐き気すらしてくる。
 僕は手で口を覆う。悪寒がして冷たい汗が止まらなかった。
 我慢できなくなり、僕が教室から出て行こうとしたところで「おい」と声がした。

「あっ、咲本」

 まるで救世主が現れたとばかりに、孤田が声を上げる。

「何してんだよ」

 咲本が眞嶋に詰め寄る。さっきまでざわついていた教室がシーンと静まり、成り行きを見守っている気配がした。

「お前らの関係をこいつに聞いてただけだ」
「関係?」

 咲本が怪訝な声を出す。

「付き合ってるのかってことだよ。年がら年中、イチャついてるだろ。事実確認しようと思ってな」

 眞嶋の顔を見ずとも、どう弄ってやろうかという下卑た笑みをしているのが分かる。
 咲本がどう答えるのか、僕は正直怖かった。
 変なことを言って、火に油を注ぐことになるんじゃないかと。素直に違う、ただの友達だと言ってくれれば良いと僕はハラハラしていた。

「はぁ? 別にお前にかんけぇねーじゃん。てか、お前だって人のこと言えなくねぇ?」

 今度は眞嶋が眉間に皺を寄せる。

「二人も引き連れて、一夫多妻か? ここは日本だから一人しか結婚できねーぞ」
「ちげぇーよ! 馬鹿じゃねぇの」

 眞嶋が怒鳴る。近くにあった机を蹴ったことで、女子が悲鳴をあげる。

「おいおい。オマエらも良いのか? こんな暴力亭主のそばにいてさ」

 後ろにいた取り巻きに向けて、ニヤニヤする咲本。僕は今にも気絶しそうだった。
 逃げようにもすっかり腰が抜けていて、地べたから腰を上げられない。
 今にも掴みかかってきそうな勢いで、眞嶋が咲本の方へと近づく。
 胸ぐらをつかもうとした瞬間――咲本がその腕を捻りあげる。
 途端に眞嶋が苦痛の声を上げた。

「おい! お前たち」

 そこでやっと担任が教室に入ってくる。
 咲本が手を離して、眞嶋が取られた腕をさすった。

「二人とも来い」

 教師に連行される形で、咲本と眞嶋が教室から出て行く。
 今のを見ただけでは明らかに、咲本の分が悪い。
 僕は立ち上がろうとするも、足が震えて立てなかった。

「大丈夫か?」

 隣にいた孤田が、僕の肩に手を置く。

「僕のせいだ……行かなくちゃ」

 これで退学にでもなったらと思うとゾッとした。僕は孤田を押しやり、這ってでも行こうとする。

「待て待て」

 孤田が僕の腕を掴む。

「離してっ」
「まぁ、落ち着けって」

 孤田が僕を宥めてくる。それでも僕は不安に駆られていた。
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