咲本翔琉は僕を巻き込む

箕田 はる

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秋の流転

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 秋が深まり始まる十月。
 僕の学校生活で、二番目に嫌いなことが行われる。
 それは文化祭だった。
 クラスで協力して、何かを成し遂げる。仲間意識を高めようという魂胆かもしれないけれど、僕からしたらとんだありがた迷惑だ。
 準備が間に合わなければ、予定のない人は残らなきゃならないし、親しくない人と一緒にいなきゃならないのだから。
 体育祭同様に、僕にとっては苦痛でしかない行事だ。

「祐智。大人しく留守番しとくんだぞ」

 咲本が僕に、マシュマロの袋を渡してくる。中にはビロード葵の新作、マカロンマシュマロが入っている。

「孤田、裕智を頼んだぞ」
「任せとけ」

 孤田が自分の胸をドンと叩く。
 僕は一体なんなんだと思いながら、二人のやりとりを見つめる。
 周囲からはクスクスと笑う声。僕は穴があったら入りたいぐらい恥ずかしくなった。
 何か発言したり反応したりすれば、さらに注目を浴びると僕は我慢する。

「じゃあー、行ってくる」

 そう言って咲本が数人の生徒とともに、教室を出て行った。

「祐智は愛されてんな」

 孤田が僕の肩を叩く。

「……そんなことないよ」
「普通、変な奴に絡まれないように見張ってろって言うか? 女子でもあるまい」
「えっ? そんなこと言ってんの?」

 僕は驚いて目を剥いた。

「おおっ、さすが咲本になると反応がいいな。いつも他の奴と話すときは大人しいのに」

 やっぱり僕はそんな風に見えるのかと、少し落ち込む。

「別に深い意味はないんだけどさ。俺とか他の奴とかにも、そんなんだと良いなぁって思っただけ」

 孤田にフォローされるも、僕は返事に悩んでいた。咲本になら自然と言葉が出てくるのに、他の人となると色々と考えてしまう。

「まぁ……ともかく、咲本たちが帰ってくるまでに、これやっちゃおうぜ」

 そう言って孤田が示したのは、文化祭の出し物であるお化け屋敷に使う予定の看板だった。
 大きな板に黒いペンキを塗り、そこに赤字でおどろおどろしく、「お化け屋敷」と書く予定だ。
 他の生徒は衣装やら、お化け屋敷の簡単な小道具を作っている。
 一番目立つ所に設置する物を、僕が担当するのは正直気が重かった。だけど他に何が出来るのかと聞かれれば、それはそれで難題だった。
 僕の唯一の特技と呼べるのが習字で、字だけは祖父から言われて丁寧に書くようにしていた。
 それを何故かみんな気付いていて、僕に看板役を任せてきたのだ。それを直接聞いたわけじゃなく、咲本がみんながそう言ってたという発言から僕は知っていた。
 ひとまず僕は、ペンキで黒く塗ろうとして、板の前にひざまずく。孤田が板を押さえてくれていて、僕は大きな筆を持つ。

「泉堂」

 名前を呼ばれて、僕はビクッと肩を跳ね上げる。それから視線を上に向けると、三人組でいつも連んでいる眞嶋たちがいた。
 僕はこの連中が苦手だった。人を見下し、いかにしていたぶるか。そんな被虐的な感情が顔に出ていて、その顔を僕は幾度となく見ていた。
 それに僕だけじゃなく、クラスのほとんどがこの三人を厄介な連中だと思っているはずだ。
 後輩からカツアゲをしているという噂もあれば、クラスの持ち物を盗んだこともある。
 僕は金目の物を学校には持ってきていなかったから、盗難被害にはあっていない。だけど、彼らがしている事実は、咲本が聞いた情報から知っていた。
 それでも証拠がないとばかりに、彼らは放免されている。 
 そんなクラスで一番面倒くさい彼らを前に、僕は完全に怖じ気づいていた。

「お前さ、咲本と付き合ってんの?」

 ニヤニヤしながらいう眞嶋の後ろで、取り巻き達もにやついてる。
 僕はこの顔をよく知っている。嫌というほどに経験しているからだ。
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