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誘いの夏
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しおりを挟む「ああ。出たぞ。澄子さんは、俺に頼ってきた」
咲本はきっぱりと言い切る。
「夢の中で澄子さんが、俺をゆすり起こして言ったんだ。祐智が危ないって。それから俺は目が覚めて、助けに走った」
「あの姿のまま?」
「もう少し人間ぽかったかな。でも可愛い子だったぞ。泣きそうな顔がエロかったし」
僕は咲本の足を蹴る。そんな目で澄子さんを見ないで欲しい。
「そんな怒んなって。嫉妬してる祐智は珍しいからついな」
咲本は僕に蹴られた足をさする。
「澄子さんを大事にしろよ。他の誰がなんと言おうとさ」
僕は「当たり前じゃん」ときっぱり告げる。
少しだけ咲本が寂しそうな笑みを浮かべた。
だけど咲本だって、いずれは別の人を好きになる日が来るはずだ。
今は辛いし、先は見えないかもしれないけれど。
僕にできたことを咲本が出来ないはずがないのだから。
「結局は影女はいなかったな。怨霊はいたけどな」
「そうだね。叔父さん、がっかりしたんじゃないかなぁ」
影女が見たいというだけで、あの家を引き取ったのだから、死体も見つかった以上はもう現れないように思える。
「それがな、そうでもないんだ」
咲本が苦い笑みを作る。
「他にも妖怪が出るとか?」
「それもあるけど、今回の死体の発見で、今度はその真相を探るって言い出してる」
「探るって……警察もわからないのに?」
それに覚えている人間がいないはずだ。
「便宜上は、知らないことになっているとでも思ったんじゃね。じいちゃん辺りなら、何か話を聞いてるかもしれねぇーし。ただ口にするのがタブーなだけで、当時の使用人の子供とか探せば、案外何か分かるかもな」
「そこまでして、知ったところでどうするの?」
「知らねーよ。言っただろ? 叔父さんは変人だって」
僕はそうだったと思って、今度こそ納得する。二回しか会っていないにも関わらず、あまり関わりたくないなと思ったぐらいだった。
「まぁーでも、一生に残る夏だったのは確かだったな」
それは僕も同意見だった。
生死に関わる夏休みだなんて、一生のうちで滅多にないことだ。
だけど、悪い夏休みだったとまでは思えなかった。
色々とあり過ぎたけど、僕の十七年の人生の中で一番、アクティブで得たことが多かった夏だっただろう。
「来年も叔父さんちに行くか?」
僕は首を横に振る。今度は何に巻き込まれるか、分かったもんじゃない。
「来年は何も起きない場所で、静かに過ごしたい」
やっぱり平穏が一番だと、僕は咲本を前にしてそれを願っていた。
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