咲本翔琉は僕を巻き込む

箕田 はる

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誘いの夏

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「曾祖父の骨の下に、女の骨が混ざってたんだと。だけど、女の骨の方が古いみたいで心中ではないだろって。やっぱり呼ばれたのかもしれないな」

 咲本が苦い顔で、フォークに苺を刺す。それを僕に向けて、「ほらやるよ」と言う。
 僕が皿を出すと「そのまま食えば良いだろ」と拗ねながらも皿に乗せてくれる。

「それで? 女の人の身元は分かったの?」

 僕は貰った苺から先に口をつける。甘酸っぱさが口の中に広がった。甘すぎないクリームといい、苺の甘みと酸味の調和がこのケーキの高級さを物語っていた。
 場違いな評価を心の中でくだしているうちに、咲本が続きを話し出す。

「分からないらしい。警察が親族に事情聴取してるらしいけど、誰も身に覚えも記憶にもないらしい。そもそも時代が昔すぎるからな。誰も生きてない」
「そっか……でもその骨はどうするの?」
「警察が預かるらしい。DNA鑑定とかするんじゃねーの」

 一緒にはなれないのか、と僕はなんだか切ない気もしていた。

「おい、同情すんなよ」

 僕が何も言ってないのに、咲本がすかさずツッコむ。

「いいか。この女はお前も巻き込もうとしたんだ。別に誰でも良いってことじゃねーか」
「そうかもしれないけど……」

 僕はあの時の、曽祖父の嬉しそうな声を思い出す。夢じゃなく、もし本当に曽祖父の記憶だとしたら、女の誘いに嬉しそうに応じる心理の全てが、操られていたものだとは思えなかった。

「それにもし、恨みだとしたらどうするんだ」
「恨み?」
「例えば咲本家の誰かが女を殺して、あそこに落とした。だからあの家にいる者を引き摺り込もうとしてるんじゃねぇの」
「だとしたら、どうして住んでる叔父さんや咲本は狙われないの? 血縁者だとしたら、僕は全く部外者じゃん」

 僕は名残惜しくも、残りのケーキを口に入れる。こんな話を聞きながら食べるものじゃないはずだ。

「俺と叔父さんは、タイプじゃなかったんじゃねーのか」
「咲本の方が、僕よりイケメンなのに?」
「イケメンとかイケメンじゃないの問題じゃなくて、自分の好みか好みじゃないかの問題だろ」

 珍しく論破された僕は、なんで僕なんだと思いながらも黙る。

「曽祖父にしろ、祐智にしろ、相手に同情しやすいのが理由なんじゃないのか」
「……そうなのかな」

 否定はできなかった。確かにあの時、女の人の寂しさに自分の孤独を重ねていたように思う。

「澄子さんにはちゃんと謝ったのか? お礼も言ったのか?」
「言ったよ。でも本当に澄子さんが、咲本の夢に出てきたの?」

 あの時の僕はぼんやりしていて、咲本もパニクっていた。だから詳しく聞くに至っていなかった。

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