咲本翔琉は僕を巻き込む

箕田 はる

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誘いの夏

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 夏休みも終わりに近づいた最終週。
 咲本から話したいことがあるから、公園で待ち合わせしようと連絡が来た。
 暑いし面倒くさかったけれど、僕は仕方なく自転車を漕いで公園へと向かった。
 僕が公園に着くと、すでに咲本は木陰の下にあるベンチに座って、棒アイスを食べていた。

「よぉ」

 僕の姿に気付いた咲本が、アイスを掲げる。

「食うか?」
「いらないよー少ししかないじゃん。それに溶けてるし」
「祐智が早く受け取らないのが悪いんだろう」

 何故か僕のせいにして、咲本が残りのアイスを口に入れる。

「で、話って何?」

 僕は隣に腰掛けるなり、手で顔を仰ぐ。なんの効果もないけれど、こうでもしてないと気が紛れなかった。

「暑いから俺んち行こうぜ」

 座ったばかりの僕を尻目に、咲本が立ち上がる。

「なんだよ。だったら最初から、咲本んちで良かったじゃん」
「あんまし家にいたくなかったから、外出てたんだよ」

 そう言われてしまえば、僕も黙るしかなかった。
 それから咲本と一緒に、自転車で咲本の家へと向かう。
 玄関先でお邪魔しますと言うと、家の奥からお姉さんが出てくる。やっぱり僕の予想が当たっていた。

「祐智くん。色々大変みたいだったね。ごめんね」

 何故かお姉さんに謝られ、僕は慌てて「別に大丈夫です」と返す。

「二人とも少し変わってるから……祐智くんも大変でしょ?」
「そんなことないですよ。仲良くしてもらってますから」

 凄く迷惑してますと言いたかったけれど、そんなことを口に出来るほどに薄情ではなかった。

「もう良いだろ。祐智と大事な話があるから、入ってくんなよ」

 咲本がさっさと、部屋に向かう階段を上がっていく。僕は「すみません」と言ってから、咲本の後を追う。
 あんな言い方しなくてもと思ったけれど、咲本は強がることしか出来ないのだと、僕には分かっている。
 だからあえて、僕は咲本の素っ気ない態度に対して何も指摘してこなかった。
 一番辛いのは咲本だし、もどかしさも感じているはずだ。
 咲本は部屋に入るなり、思い溜息を吐いた。

「なんかさ……ねぇちゃんが早く結婚して、この家を出る方が良いのかもしれない」
「どうしたの? 急に」
「疲れるんだよ。寂しさ以上にさ。距離が近いって、良いことばかりじゃないんだな」

 僕が何かを返す前に咲本が「座ってろよ」と言って、僕を座らせる。

「飲みもん取ってくる。ねぇちゃんが途中乱入してきたら、面倒だからな」

 何の話をするつもりか分からなかったけれど、僕は頷く。
 僕も手伝おうかと思って、腰を上げかけた。
 だけどお姉さんに見つかって「友達を動かすなんて」と、前みたいに咎められるのも咲本が可哀想だった。ここは甘えようと、僕は大人しく待つことにする。
 咲本がお茶とケーキを持って戻ってくると、僕の向かいに腰を下ろす。

「叔父さんから連絡があった」
「何だって?」

 僕はフォークを手に取る。ショートケーキも僕の好物だ。

「死体が見つかったってよ」
「本当?」

 僕は口まで運んだフォークを一旦止める。

「やっぱり井戸から見つかったらしい」

 咲本が自分の分のケーキを雑に切る。なんの躊躇も感慨もない様子で、口へと運んでいく。
 僕と違って、日常的にケーキを食べる習慣があるんじゃないかってぐらいに、なんの有り難みも感じなかった。

「それも曽祖父だけじゃなくて、別の骨もあったらしい」

 僕はフォークを口に入れたまま固まる。
 柔らかなスポンジとクリームの甘さすら忘れてしまう。
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