咲本翔琉は僕を巻き込む

箕田 はる

文字の大きさ
上 下
42 / 72
誘いの夏

24

しおりを挟む

「慌てて起きて、部屋に行ったんだ。そしたら、お前はいないし、障子が開かれてて……縁側には澄子さんが倒れてるから、何かあったと思って……」

 そこで咲本が、言葉を詰まらせる。
 僕が覚えていることと言ったら、障子を開けたところまでだった。その事を言うと、咲本が頷く。

「俺が見つけた時は、祐智は裏にある井戸の前にいた。急に蓋を開け始めたから慌てて止めたところで、お前は気を失ったんだ」

 見ていた光景を思い出し、同じ末路を辿るところだったのかとゾッとした。

「まさか、こんな事になるとは思わなかった。ごめんな、祐智」
「いいよ。僕だって、なんだかんだ言いながら、真相を確かめようとしてたんだから」

 下げていた咲本の顔が上がる。驚いたような顔をする咲本に、本当のことを告げた。

「咲本と一緒の部屋にしなかったのは、澄子さんと二人になりたかったからじゃない。僕だけならもしかして、出てくるんじゃないかって思ったからなんだ」
「あんなに嫌がってたのにか?」
「嫌なことには変わりないけど、咲本が僕に色々としてくれてるから……少しでも役に立てたらと思って」

 照れくささから、僕は咲本から目を逸らす。

「……祐智」

 咲本がまたしても、僕を抱きしめようとする。僕が避けようと後ろに肘をついたところで、襖が開く音がした。

「ごめん。お邪魔だったかな?」

 ニコニコしながら入ってきた叔父さんに、僕は慌てて咲本を押しやる。

「違います! 誤解ですから」

 僕が叫ぶと「元気そうで良かったよ」と叔父さんが襖を閉めて、中に入ってくる。

「翔琉から連絡があったんだ。祐智くんが今にも死にそうだってぐらいの狼狽えようだったから、飛んできちゃったよ」
「危うく死ぬとこだったんだ」

 咲本が険しい声で言う。

「まぁー、無事で何よりだよ。ところで、何が起きたか聞いても良いかな?」

 叔父さんが僕の近くに腰を下ろす。
 その表情には僕が死にかけたという事実よりも、影女に対する好奇心に満ちていた。
 僕は記憶に残っている範囲のことを伝えた。
 見た光景について話すと、叔父さんは「曽祖父の兄で間違いない」と嬉しそうに頷く。

「同調したのかもしれないね。危うく君まで連れ去られるところだったけど、大きな収穫だ」

 咲本の方がマシだ。僕は人の死よりも好奇心を優先する叔父さんに引いていた。

「さすが翔琉が選んだ相手なだけあるよ」
「祐智は俺のだからな」

 僕と叔父さんの間に、咲本が割り込む。

「……僕は咲本のものじゃないんだけど」

 異様な状況に反論を口にするも、見事にスルーされる。

「そんな事言わずにさ。まだこの辺は色々と怪奇が眠ってるんだ。あの山もその一つ。翔琉もよく知ってるだろ?」

 狐の嫁入りだの河童だの、そんな話を咲本もしていた。

「こいつを巻き込むなよ」

 咲本が憮然として言う。どの口が言えるんだと、僕は内心でぼやいた。

「まぁまぁ、そんなに怒るなって。取って食いやしないからさ」

 それから笑顔を貼り付けたまま、叔父さんが僕の方を向く。

「祐智くん。いつでも遊びに来なよ」

 僕は頷かずに、曖昧に笑みを作った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

パラサイト/ブランク

羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。

【完結】知られてはいけない

ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 (第二回きずな文学賞で奨励賞受賞)

ラヴィ

山根利広
ホラー
男子高校生が不審死を遂げた。 現場から同じクラスの女子生徒のものと思しきペンが見つかる。 そして、解剖中の男子の遺体が突如消失してしまう。 捜査官の遠井マリナは、この事件の現場検証を行う中、奇妙な点に気づく。 「七年前にわたしが体験した出来事と酷似している——」 マリナは、まるで過去をなぞらえたような一連の展開に違和感を覚える。 そして、七年前同じように死んだクラスメイトの存在を思い出す。 だがそれは、連環する狂気の一端にすぎなかった……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

182年の人生

山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。 人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。 二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。 (表紙絵/山碕田鶴)  ※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。本日「64」まで済。

禁忌index コトリバコの記録

藍沢 理
ホラー
都市伝説検証サイト『エニグマ・リサーチ』管理人・佐藤慎一が失踪した。彼の友人・高橋健太は、佐藤が残した暗号化ファイル「kotodama.zip」を発見する。 ファイルには、AI怪談生成ブログ「コトリバコ」、自己啓発オンラインサロン「言霊の会」、そして福岡県██村に伝わる「神鳴り様」伝承に関する、膨大な情報が収められていた。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...