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誘いの夏
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しおりを挟む「慌てて起きて、部屋に行ったんだ。そしたら、お前はいないし、障子が開かれてて……縁側には澄子さんが倒れてるから、何かあったと思って……」
そこで咲本が、言葉を詰まらせる。
僕が覚えていることと言ったら、障子を開けたところまでだった。その事を言うと、咲本が頷く。
「俺が見つけた時は、祐智は裏にある井戸の前にいた。急に蓋を開け始めたから慌てて止めたところで、お前は気を失ったんだ」
見ていた光景を思い出し、同じ末路を辿るところだったのかとゾッとした。
「まさか、こんな事になるとは思わなかった。ごめんな、祐智」
「いいよ。僕だって、なんだかんだ言いながら、真相を確かめようとしてたんだから」
下げていた咲本の顔が上がる。驚いたような顔をする咲本に、本当のことを告げた。
「咲本と一緒の部屋にしなかったのは、澄子さんと二人になりたかったからじゃない。僕だけならもしかして、出てくるんじゃないかって思ったからなんだ」
「あんなに嫌がってたのにか?」
「嫌なことには変わりないけど、咲本が僕に色々としてくれてるから……少しでも役に立てたらと思って」
照れくささから、僕は咲本から目を逸らす。
「……祐智」
咲本がまたしても、僕を抱きしめようとする。僕が避けようと後ろに肘をついたところで、襖が開く音がした。
「ごめん。お邪魔だったかな?」
ニコニコしながら入ってきた叔父さんに、僕は慌てて咲本を押しやる。
「違います! 誤解ですから」
僕が叫ぶと「元気そうで良かったよ」と叔父さんが襖を閉めて、中に入ってくる。
「翔琉から連絡があったんだ。祐智くんが今にも死にそうだってぐらいの狼狽えようだったから、飛んできちゃったよ」
「危うく死ぬとこだったんだ」
咲本が険しい声で言う。
「まぁー、無事で何よりだよ。ところで、何が起きたか聞いても良いかな?」
叔父さんが僕の近くに腰を下ろす。
その表情には僕が死にかけたという事実よりも、影女に対する好奇心に満ちていた。
僕は記憶に残っている範囲のことを伝えた。
見た光景について話すと、叔父さんは「曽祖父の兄で間違いない」と嬉しそうに頷く。
「同調したのかもしれないね。危うく君まで連れ去られるところだったけど、大きな収穫だ」
咲本の方がマシだ。僕は人の死よりも好奇心を優先する叔父さんに引いていた。
「さすが翔琉が選んだ相手なだけあるよ」
「祐智は俺のだからな」
僕と叔父さんの間に、咲本が割り込む。
「……僕は咲本のものじゃないんだけど」
異様な状況に反論を口にするも、見事にスルーされる。
「そんな事言わずにさ。まだこの辺は色々と怪奇が眠ってるんだ。あの山もその一つ。翔琉もよく知ってるだろ?」
狐の嫁入りだの河童だの、そんな話を咲本もしていた。
「こいつを巻き込むなよ」
咲本が憮然として言う。どの口が言えるんだと、僕は内心でぼやいた。
「まぁまぁ、そんなに怒るなって。取って食いやしないからさ」
それから笑顔を貼り付けたまま、叔父さんが僕の方を向く。
「祐智くん。いつでも遊びに来なよ」
僕は頷かずに、曖昧に笑みを作った。
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