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誘いの夏
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しおりを挟む「今日なんだけど……別々の部屋で寝ない?」
お風呂から上がった僕は、布団を敷いている咲本に告げる。
「大丈夫なのか?」
驚いている咲本に僕は頷く。
「明日か明後日には、帰れなきゃいけないだろうし、少しでも二人の時間を過ごしたいんだ」
すごく照れ臭いし、僕らしくないけど頑張って言い切る。
「お前も男だったんだなぁ」
咲本はニヤニヤしながら、布団を敷こうとしていた手を止める。
予想通りの反応に、僕は呆れかえっていたけれど、顔に出さないように気をつける。
「頑張れよ」
僕の肩を叩く。それから布団を抱えて、部屋を出て行った。
僕は一人になると、大きく息を吐く。
本当は怖いし、不安だってある。
だけど、この二日間、咲本と一緒に過ごしてみて、色々と助けられてることを知った。
だから僕も、少しでも力になれたらと思ったのだ。そんなことを口にしたら、咲本が調子に乗るから言わないけれど。
静まり返った部屋に、澄子さんと僕の二人きりになる。
本当だったら嬉しいはずなのに、不安と緊張であまり余裕がなかった。
「澄子さん。僕にもしものことがあったら、咲本を頼ってね」
言ってから、まるで遺言みたいだなぁと苦笑する。
咲本にも、澄子さんを任せると伝えておけば良かったかもしれない。だけどそれを言ったら、僕が何をしようとしてるのか探ってくるだろう。
それにきっと、何も言わなくたって、咲本なら澄子さんを祖父に返してくれそうだった。
あまり眠気はなかったけれど、僕は電気を消して横になった。
月明かりで障子が白く光って見える。庭に植った影が映り込んでいて、ここに女の姿が現れたら怖いと僕は天井を見た。
板張りになっている木の木目が、なんだか人の目にも見えて怖い。
こういう現象って、なんて言うんだったか……
「澄子さん、知ってる? 木目とかが、人の目とか顔に見える現象のこと」
僕はしばらく考え、結局はスマホで調べた。
「ああ、シミュラクラ現象かぁ。なんか聞いたことあるけど、案外忘れるもんだね」
澄子さんからの返事はなくとも、僕は怖さを紛らわすために口を動かす。
くだらない雑学から、咲本との事件のこと。
それから、テレビに雛人形が映るだけで、両親の顔が強張ることまで――
「親はさぁー、何も分かってないんだよ。人形ならば誰でも良いわけじゃないのに、やたらと反応するんだ。それなら僕が人間の女の子を好きだったら、女の子が出てるテレビを見ても同じことをするのかって話だよね」
言ってから僕はハッとする。余計なことを言ったと、話した後になって後悔したのだ。
慌てて「今の忘れて」と続ける。
こんな話をしたところで、澄子さんは良い気がしないはずだ。
家族の話をすると、そういうギクシャクした関係の話ばかりになると気づき、僕は咲本の話をした。
咲本がトイレの花子さんは本当にいるのか探すと言って、女子に調べさせたりしたこと。
学校の都市伝説が本当か探るために、深夜の学校に忍び込んだこと。もちろん、僕も巻き込んでだ。
親の目を掻い潜ったうえで、夜の学校でも警報器や当直の教師に見つからないか気が気じゃなかった。
当たり前だけど、都市伝説などあるはずもなく、違った恐怖に怯えながら僕たちは帰宅したのだった。
一体何歳だよと言いたくなる。咲本は小学生で卒業しそうなことにいつも真剣になっている。
学校でも変わり者だと話題に上がってるのに、他のポテンシャルが高いせいでやけに人気があった。
だから冴えない僕といつも一緒なのが、多分周囲から見れば不思議に思えるはずだ。
その事を愚痴りながら、僕はふと気付く。
僕の学校生活の中心が咲本であり、他の人について何も知らないし、関わりが薄いということにだ。
虚しさから、僕は口を閉じた。
途端に部屋は、シーンと静まり返る。
今夜は虫の声すらしない。風も吹いていないのか、本当に無音だった。
「喋りすぎてごめん。おやすみ」
僕は最後にそう声を掛けて、目を閉じた。
しばらくは夢現の状態で、そのうち本当に寝入っていた。
目覚めた時にはまだ部屋は暗く、ぼんやりとした掛け時計は、まだ深夜の二時を指していた。
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