37 / 72
誘いの夏
19
しおりを挟む少し冷ましてから、僕はゆっくりと口につける。
さすがビロード葵。焼いてもすごく美味しかった。少し焦げたのか、サクッとした周りの感触と中のふわふわ感が堪らない。
「すげー美味そうに食うじゃん」
咲本がニヤニヤしている。僕はそれにお構いなしに、また咲本に刺してもらう。
「祐智はマシュマロ食ってる時が、一番素直で可愛い」
「うるさい」
口では悪態を吐いても、顔は緩みまくっているだろう。両手に好きなものを抱えている僕は今、一番幸せかもしれない。
「美味いけど、祐智みたいに鼻の下伸ばすほどではないな」
咲本がマシュマロを口にしながらぼやく。
「伸ばしてないよ」
「伸ばしてる伸ばしてる。やばいぞ。鏡見てみろ」
咲本が笑う。怒りたかったけど、僕は笑ってしまった。
なんだかんだ騙されてきた場所だけど、来てよかったなと僕はそう思えていた。
焼きマシュマロ会を終えた僕たちは、戻った頃には汗だくになっていた。
順番にシャワーを浴びに行き、それから各自まったりすることにした。さすがに疲れたのか、咲本は僕がシャワーから戻ってくる頃には、昼寝をしていた。
僕も気付けばうたた寝していて、目が覚めた頃には、外はすっかり暗くなっていた。
寝過ぎたかもと少し焦ったところで、ふと腕に違和感を感じる。視線を向けた僕は驚きのあまり、固まった。
僕の腕の中に澄子さんがいるのだ。しかも、咲本がかけてくれたのか、薄手のブランケットが僕の腰にかけられていた。
咲本の仕業に間違いない。咲本が澄子さんに触れたという嫉妬心が湧く。だけど、僕と一緒に寝かせてやりたいという心遣いもあるかもしれないと思うと、下手に怒れないなぁとも思ってしまう。
とりあえず僕は、澄子さんを手作りの座布団椅子に座らせると、姿の見えない咲本を探すことにした。
咲本は簡単に見つかり、台所で夕飯の準備をしていた。
僕の気配に気づくと、咲本がニヤニヤし始める。
ああ、やっぱり咲本の仕業だと分かり、照れ隠しに抗議を唱えようとした。
「驚いたぞ。目が覚めたらお前が、澄子さんを抱いてるんだもんな。あんだけ一緒に寝ないって言ってたくせに、我慢できなかったのか」
「ばか! 変な言い方すんなよ! そもそも、咲本がやったんだろ」
急激に頬が熱くなる。苛立ちから僕は声を荒げた。
「はぁ? お前何言ってんだ? 俺は触ってないぞ」
咲本が首を傾げる。
「嘘だ。僕が寝るまでの間、澄子さんはテーブルの前に座ってたから」
僕は縁側の近くで、座布団を枕がわりにして寝ていたのだ。
寝ぼけて連れて行くにしては、立ち上がって移動しなくちゃならない。
「お前が触るなって、言ったんだろ。それに人の女に手を出す趣味なんかねーよ」
咲本も不機嫌さを顔に出して、僕にはっきり告げる。
「じゃあーどうして、僕のところにいたんだよ」
咲本の嘘や隠し事は表情を見ればなんとなく分かる。ふざけている感じもない以上、僕は混乱していた。
「しらねぇーよ。寝ぼけてたんじゃねーのか」
腑には落ちなかったけれど、咲本の機嫌をこれ以上損ねて、ご飯が食べられなくなるのも困る。
「……疑ってごめん」
僕は咲本の背に向かって謝る。カレーをかき混ぜている咲本は溜息を吐いてから、「今後は俺を疑うなら、証拠を持ってこいよな」と言った。
「ブランケットかけてくれたのは咲本?」
僕は横になっただけで、特に何もかけていなかったはずだ。
「それは俺。へそ出してるから、さすがに風邪ひくと思ってな。その時にはすでに抱いて寝てたぞ」
「……ありがとう」
色々と疑問は残っていたけれど、僕は諦めて皿にご飯をよそうことにした。
夕飯のカレーを食べた後、咲本が花火をしようと切り出す。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
パラサイト/ブランク
羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。
【完結】知られてはいけない
ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。
他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。
登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。
勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。
一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか?
心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。
(第二回きずな文学賞で奨励賞受賞)
熾ーおこりー
ようさん
ホラー
【第8回ホラー・ミステリー小説大賞参加予定作品(リライト)】
幕末一の剣客集団、新撰組。
疾風怒濤の時代、徳川幕府への忠誠を頑なに貫き時に鉄の掟の下同志の粛清も辞さない戦闘派治安組織として、倒幕派から庶民にまで恐れられた。
組織の転機となった初代局長・芹澤鴨暗殺事件を、原田左之助の視点で描く。
志と名誉のためなら死をも厭わず、やがて新政府軍との絶望的な戦争に飲み込まれていった彼らを蝕む闇とはーー
※史実をヒントにしたフィクション(心理ホラー)です
【登場人物】(ネタバレを含みます)
原田左之助(二三歳) 伊代松山藩出身で槍の名手。新撰組隊士(試衛館派)
芹澤鴨(三七歳) 新撰組筆頭局長。文武両道の北辰一刀流師範。刀を抜くまでもない戦闘の際には鉄製の軍扇を武器とする。水戸派のリーダー。
沖田総司(二一歳) 江戸出身。新撰組隊士の中では最年少だが剣の腕前は五本の指に入る(試衛館派)
山南敬助(二七歳) 仙台藩出身。土方と共に新撰組副長を務める。温厚な調整役(試衛館派)
土方歳三(二八歳)武州出身。新撰組副長。冷静沈着で自分にも他人にも厳しい。試衛館の弟子筆頭で一本気な男だが、策士の一面も(試衛館派)
近藤勇(二九歳) 新撰組局長。土方とは同郷。江戸に上り天然理心流の名門道場・試衛館を継ぐ。
井上源三郎(三四歳) 新撰組では一番年長の隊士。近藤とは先代の兄弟弟子にあたり、唯一の相談役でもある。
新見錦 芹沢の腹心。頭脳派で水戸派のブレインでもある
平山五郎 芹澤の腹心。直情的な男(水戸派)
平間(水戸派)
野口(水戸派)
(画像・速水御舟「炎舞」部分)
ラヴィ
山根利広
ホラー
男子高校生が不審死を遂げた。
現場から同じクラスの女子生徒のものと思しきペンが見つかる。
そして、解剖中の男子の遺体が突如消失してしまう。
捜査官の遠井マリナは、この事件の現場検証を行う中、奇妙な点に気づく。
「七年前にわたしが体験した出来事と酷似している——」
マリナは、まるで過去をなぞらえたような一連の展開に違和感を覚える。
そして、七年前同じように死んだクラスメイトの存在を思い出す。
だがそれは、連環する狂気の一端にすぎなかった……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
182年の人生
山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。
人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。
二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。
(表紙絵/山碕田鶴)
※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。本日「64」まで済。

禁忌index コトリバコの記録
藍沢 理
ホラー
都市伝説検証サイト『エニグマ・リサーチ』管理人・佐藤慎一が失踪した。彼の友人・高橋健太は、佐藤が残した暗号化ファイル「kotodama.zip」を発見する。
ファイルには、AI怪談生成ブログ「コトリバコ」、自己啓発オンラインサロン「言霊の会」、そして福岡県██村に伝わる「神鳴り様」伝承に関する、膨大な情報が収められていた。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる