咲本翔琉は僕を巻き込む

箕田 はる

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誘いの夏

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 少し冷ましてから、僕はゆっくりと口につける。
 さすがビロード葵。焼いてもすごく美味しかった。少し焦げたのか、サクッとした周りの感触と中のふわふわ感が堪らない。

「すげー美味そうに食うじゃん」

 咲本がニヤニヤしている。僕はそれにお構いなしに、また咲本に刺してもらう。

「祐智はマシュマロ食ってる時が、一番素直で可愛い」
「うるさい」

 口では悪態を吐いても、顔は緩みまくっているだろう。両手に好きなものを抱えている僕は今、一番幸せかもしれない。

「美味いけど、祐智みたいに鼻の下伸ばすほどではないな」

 咲本がマシュマロを口にしながらぼやく。

「伸ばしてないよ」
「伸ばしてる伸ばしてる。やばいぞ。鏡見てみろ」

 咲本が笑う。怒りたかったけど、僕は笑ってしまった。
 なんだかんだ騙されてきた場所だけど、来てよかったなと僕はそう思えていた。



 焼きマシュマロ会を終えた僕たちは、戻った頃には汗だくになっていた。
 順番にシャワーを浴びに行き、それから各自まったりすることにした。さすがに疲れたのか、咲本は僕がシャワーから戻ってくる頃には、昼寝をしていた。
 僕も気付けばうたた寝していて、目が覚めた頃には、外はすっかり暗くなっていた。
 寝過ぎたかもと少し焦ったところで、ふと腕に違和感を感じる。視線を向けた僕は驚きのあまり、固まった。
 僕の腕の中に澄子さんがいるのだ。しかも、咲本がかけてくれたのか、薄手のブランケットが僕の腰にかけられていた。
 咲本の仕業に間違いない。咲本が澄子さんに触れたという嫉妬心が湧く。だけど、僕と一緒に寝かせてやりたいという心遣いもあるかもしれないと思うと、下手に怒れないなぁとも思ってしまう。
 とりあえず僕は、澄子さんを手作りの座布団椅子に座らせると、姿の見えない咲本を探すことにした。
 咲本は簡単に見つかり、台所で夕飯の準備をしていた。
 僕の気配に気づくと、咲本がニヤニヤし始める。
 ああ、やっぱり咲本の仕業だと分かり、照れ隠しに抗議を唱えようとした。

「驚いたぞ。目が覚めたらお前が、澄子さんを抱いてるんだもんな。あんだけ一緒に寝ないって言ってたくせに、我慢できなかったのか」
「ばか! 変な言い方すんなよ! そもそも、咲本がやったんだろ」

 急激に頬が熱くなる。苛立ちから僕は声を荒げた。

「はぁ? お前何言ってんだ? 俺は触ってないぞ」

 咲本が首を傾げる。

「嘘だ。僕が寝るまでの間、澄子さんはテーブルの前に座ってたから」

 僕は縁側の近くで、座布団を枕がわりにして寝ていたのだ。
 寝ぼけて連れて行くにしては、立ち上がって移動しなくちゃならない。

「お前が触るなって、言ったんだろ。それに人の女に手を出す趣味なんかねーよ」

 咲本も不機嫌さを顔に出して、僕にはっきり告げる。

「じゃあーどうして、僕のところにいたんだよ」

 咲本の嘘や隠し事は表情を見ればなんとなく分かる。ふざけている感じもない以上、僕は混乱していた。

「しらねぇーよ。寝ぼけてたんじゃねーのか」

 腑には落ちなかったけれど、咲本の機嫌をこれ以上損ねて、ご飯が食べられなくなるのも困る。

「……疑ってごめん」

 僕は咲本の背に向かって謝る。カレーをかき混ぜている咲本は溜息を吐いてから、「今後は俺を疑うなら、証拠を持ってこいよな」と言った。

「ブランケットかけてくれたのは咲本?」

 僕は横になっただけで、特に何もかけていなかったはずだ。

「それは俺。へそ出してるから、さすがに風邪ひくと思ってな。その時にはすでに抱いて寝てたぞ」
「……ありがとう」

 色々と疑問は残っていたけれど、僕は諦めて皿にご飯をよそうことにした。
 夕飯のカレーを食べた後、咲本が花火をしようと切り出す。
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