咲本翔琉は僕を巻き込む

箕田 はる

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誘いの夏

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「見つかった方が良いんだよ、あんなの。相手が知った方が、状況が変わるかもしれねぇーじゃん」

 咲本が立ち上がり、「ほら、行くぞ」と僕の腕を引く。正直、めんどくさい。

「帰ったら焼きマシュマロやるか。ビロード葵の焼きマシュマロ専用マシュマロがあるしな。火起こし用の枝を集めないと」

 僕は咲本に腕を引かれるまでもなく、立ち上がった。



 澄子さんを一人にする心配もある。だけど、山に連れて行くよりましだからと、僕は留守番をお願いした。
 家から歩いておおよそ十分。山の入り口に辿り着く。私有地につき、立ち入り禁止と書かれた看板が立っている。
 僕はその看板を見て、少なからずはホッとしていた。

「咲本って、山が好きだよね」

 そういえば、やたらと山に連れてこられてる気がしていた。

「静かだからな。なんか騒がしいのって、面倒くさいだろ」

 面倒くさいの意味はわからないけれど、僕と同じく人混みが嫌いなのかもしれない。僕と遊びに行くときも、比較的に繁華街から離れた場所にしていたような気がした。
 人が通れるような道を選びながら登り、息が乱れ始めた頃にやっと開けた場所に出る。
 そこに小さな祠があって、長い間雨ざらしのせいか少し廃れていた。

「無事に帰れるように祈っとくか」

 咲本がその辺で拾った猫草を置いてあった花瓶に挿す。
 逆に罰当たりな気もしたけれど、悪気がなさそうだから何も言わないでおいた。

「何を祀ってるの?」
「詳しくは知らないけど、ここら辺でよく狐の嫁入りがあるらしい」
「晴れているのに、雨が降るってやつでしょ?」

 でもあれは、昔の人が狐に化かされていると解釈しただけで、本当は気象変動のはずだ。

「ああ。俺も見たくて、影女のついでに見に来たこともあったんだけど、未だに遭遇したことがない」

 当たり前じゃんと思ったけど、「ふーん」と言うだけで僕は枝を探そうと、周囲を見渡した。
 少し開けているからか、遠くの方に家の屋根が見えた。そう考えると、そこまで標高は高くないのかもしれない。
 僕はとりあえず、周囲に落ちている枝を集めることにした。

「待て待て。まだ川に行ってないだろ?」
「えっ? 行くの?」
「当たり前だろ。祐智はもっと、心に余裕を持った方がいい」

 咲本に説教されるのは違うと、不満を顔にする。そんな僕を尻目に、咲本は「ほら行くぞ」と先陣を切る。
 僕は仕方なく、ついて行かざるを得なかった。
 しばらく下っていると、前方に緩やかに流れる小川を見つける。確かに他の場所よりも涼しく感じられた。
 それに木々の間から注がれる日の光が川面に反射して、綺麗だなと素直に思えた。

「いないなぁ」

 咲本がキョロキョロし始める。

「なんか咲本って、妖怪に縁がありすぎじゃん」

 普通の人だったら冗談で口にするとしても、本気で探したり深く関わったりしないはずだ。

「言われてみればそうだな。考えもしなかった」

 もうお馴染み過ぎて、自分で認識していなかったらしい。僕は逆に、咲本に出会ったことで、怪異だの妖怪だのに触れるきっかけが増えてしまっていた。

「怖くないの?」
「別に。怖がるのって、失礼じゃん。相手だって生きてるんだからさ」
「幽霊は死んでるんじゃないの?」
「元は生きてたんだ。俺たちと同じ、感情があるだろ」

 幽霊や妖怪は思いやれて、どうして僕の心は理解してくれないのだろう。
 だけどそんな事を咲本に求めてもしょうがない。

「まぁ……そうだね」

 とりあえず同意して、僕は今度こそ枝探しに専念することにした。
 咲本もカッパじゃなくて、枝を探して欲しかったけれど、言うだけ無駄だろう。
 しばらくは別々に行動し、やっと咲本が落胆した顔で僕を呼ぶ。
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