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誘いの夏
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しおりを挟む外から差す日の光が眩しく、まだぼんやりした頭で僕は体を起こした。
時計を見ると九時を過ぎたところで、何事もないまま朝を迎えたようだった。
「おはよう」
隣で眠る澄子さんに声をかける。それから奥の布団を見ると、抜け殻のように放置された布団があるだけで、咲本の姿はなかった。
僕は仕方なく、咲本の分まで布団を畳んだ。
それから澄子さんの髪をとかして、着物を整える。
それが終わってから、僕は洗面所へと向かった。
途中にある台所を通ると、咲本が何やら料理をしていた。
「やっと起きたか。もう九時過ぎてるぞ」
咲本が包丁片手に振り返る。危ないなぁと思いながらも、「まだ九時じゃん」と言って僕はさっさと立ち去る。
顔を洗って戻ってくると、咲本が「昨日の成果を見せてみろ」と言って、茶碗としゃもじを渡してきた。
仕方なく僕はそれを受け取ると、炊飯器からご飯をよそっていく。その様子を腕を組みつつ、咲本が監視しするのが相変わらず鬱陶しい。
「昨日よりマシだな」
よそったご飯をチェックして、咲本が一人で納得する。
くだらないなぁ、と思う。だけど、咲本が僕の為だと言ってくれてる以上は、乗ってあげようと思えていた。
朝食は卵焼きと焼き魚、お味噌汁とご飯という定番のメニューだった。それを一人で用意してくれたことに、僕も素直に有り難かったし感心していた。
「ありがとう。咲本が料理上手だったのは意外だけど」
僕はいただきますと言って、箸を取った。
「料理はばあちゃんから躾けられたからな。でも祐智も、ご飯つげるようになったじゃねーか」
「それは料理とは言えないから」
咲本はバカにしてるわけじゃないのだろうけど、僕は突っ込まずにはいられなかった。
「まぁーやってくうちに、祐智だって出来るようになるだろ。昼はソーメンにするから、茹で方教えてやるよ」
「ありがとう。それぐらいだったら、出来るかも知れない」
素麺だったら、僕にもできそうだった。お湯を沸かして、茹でれば良いだけのはずだ。
「暑い夏の定番だからな。カップ麺食うよりも健康的だしな」
まだ若いのに健康を気にする咲本が、何だか微笑ましかった。
食事を終えると、山に探索に行こうと咲本が言い出す。
「川があるし、あわよくばカッパが見れるかもしれないぞ」
「ねぇ……あのさぁ、僕がいつカッパ好きだって言った? 別に好きじゃないし、見たいと思わないんだけど」
春に起きた事件を思い出し、僕は逆にトラウマになっているぐらいだ。
また藁人形なんてあったりでもしたら、僕は一生山に登れなくなってしまう。
「まぁーいいじゃん。ここより涼しいしさ。うちの山だから、何しても怒られないしな」
「……山も持ってるんだね」
こんな広い家もあって、山まであるだなんて、昔はこの辺りの地主だったと言われても不思議じゃなかった。
「持ってても使わなきゃ意味ねーだろ。だから、俺がたまに来て使ってやってるんだ」
咲本がよく分からない自論を展開する。
「持ち山ってことは、普通の人は入れないの?」
「さぁーな。こっそりとは、入ってるんじゃないのか」
僕は少しガッカリする。私有地につき、入山禁止としていることを期待していた。
「なんでだ? 俺と二人っきりになりたいのか?」
「違うよ。藁人形があったりしたら、やだったからさ」
「それはねーよ。あれは場所が大体決まってるし、近くに神社があることが多いからな。どこでも良ければ、深夜の公園の木だの自宅の庭の木でもいいだろ」
「それじゃあ、見つかるじゃん」
見つかったら見た人を殺さないと、本人に呪いが来ると聞いたことがあった。
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