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誘いの夏
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しおりを挟む「で、その原因が影女によるものらしい」
「影女?」
「夜になると、障子の向こう側に現れる女のことらしい。で、叔父さんの曾祖父の兄が、その影女に連れて行かれたって言われている」
「それと僕に、何の関係があるの?」
そんな場所に、黙って僕を連れてきた疑問。それと同時に怒りも湧く。
「叔父さんも俺も、この部屋に泊まったんだけど、全然来る気配がなくてさ。祐智だったら、現れるかもしれないと思って」
「なんで僕なんだよ! 赤の他人なのに、なおさら関係ないじゃんか」
「祐智ならって思ったんだ。言っただろ、祐智はすげぇって」
「何言ってんの。全然凄くないし。そもそも咲本がいないときは、何も起きないから」
咲本が関わっていないときの僕は、至って平穏に過ごせているはずだ。
「叔父さんに祐智の話をしたら、是非ここに泊まってみて欲しいって言われたんだ。叔父さんの頼みだから、俺も無碍に出来ないだろ」
「叔父さんの頼みは本当かもしれないけれど、どうせ咲本が提案したんだろ?」
我が道をゆく咲本が、相手に遠慮なんてするはずがない。どうせ、叔父さんと結託しただけのはずだ。
「……まぁ、そこは良いじゃん。で、叔父さんは誰も住まなくなって、売りだそうとしたここを引き取ることにしたんだ。本当に影女に魅入られて連れて行かれたのか、噂の真相を探るために。そこまでしてるんだったら、手伝ってあげるに超したことはないだろ」
「どこまでも僕に関係ないじゃん。てか、そもそも、曾祖父って言ったら、明治とか大正ら辺の話じゃないの? 今更解決しようだなんて、無理でしょ」
それに妖怪的なものに攫われたという時点で、それが間違いかもしれない。
単に失踪したとか、本当は人為的な事件の可能性が高いと思えた。
「そんなの分からないだろ。やってみなきゃ分からないことだってある」
変なところでやる気を出すのが、いつもの咲本だ。それは仕方ないけれど、僕を巻き込むのはやめて欲しい。
「それに祐智と、夏休みを満喫したいって気持ちもあったんだ。だけど祐智は騒々しいのは嫌いだろ? だったら、ここならピッタリじゃんてな。金もかかんねーし」
「それは嬉しいけどさぁ……でも、怖いのも嫌いなんだけど」
「だから澄子さんを連れてこいって、言ったんだ。いつもか弱そうな祐智でも、さすがに澄子さんの前なら男を出すだろ」
「そんな事のために、澄子さんを連れ出させたの?」
クズだと、僕は咲本を軽蔑の目で見る。
「それもあるけどさぁー、俺にも紹介して欲しいし、祐智にハネムーンさせてやりてーとは思ってたのは本当だから。明日、焼きマシュマロと花火やろうな?」
宥めてくる咲本は、少し必死だった。
これ以上責めたところで、堂々巡りだし、疲労がピークだった事から僕は折れた。
「……分かった。で、その影女がもし出てきたとして、僕にどうしろっていうの?」
「影女に聞いてもらいたい。曽祖父の兄が今どこにいるのかを……まだ骨が見つかってないからな。きちんと墓に入れてやりたいらしい」
気持ちは分かるけど、本当に現れるか分からないし、正直僕は怖い。
「僕が連れ去られたらどうするの?」
そもそも連れ去られたのなら、僕だってあり得るはずだ。
「澄子さんのこと愛してるんだろ?」
「えっ?」
「澄子さんへの想いが強いなら、そんな事はありえない」
突拍子もない理由に僕は混乱していた。相変わらず、咲本は何の脈絡もない。
「その人は影女に惚れ込んで、自分からついていったんだ。祐智が澄子さんにしか興味がなければ、そんな事はあり得ない」
「どうして、その人が影女に惚れ込んだなんて分かるんだよ」
吹聴して回るタイプだったのだろうか。だったら何故、誰も止めなかったのか。普通は変だと思うはずだ。
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