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誘いの夏
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新幹線から在来線に乗り換え、そこからさらに一時間半。すっかり車窓の外の景色は、長閑な田園風景に変わっていた。
「叔父さんが、迎えに来てるはずだ」
駅に着いて改札を抜けるなり、咲本がキョロキョロと辺りを見渡し始める。
もっと田舎町を想像していた僕は、駅周辺が意外と建物が多いことに驚く。
大きなロータリーにはタクシーやバス停もあり、人の姿もそれなりにあった。
だけど、やっぱり人から醸し出される雰囲気がどこか違う。何だかゆったりとしているというか、年寄りが多いようにも感じられた。
「あ、あれだ」
咲本がスマホ片手に、シルバーの車に向かって歩き出す。
僕も一緒についていくと、中から優しそうな眼鏡の中年男性が降りてくる。
「お世話になります」
僕が挨拶すると「祐智くんだよね。こちらこそ、よろしく」と、愛想の良い笑顔で返してくれる。
よかった良い人だと、僕はほっとした。
「翔琉くんも久しぶりだね。今日は遠路はるばる来てくれてありがとう」
「別に良いって。気にすんな」
何でそんな偉そうなんだよと、僕は咲本を睨む。
「暑いよね。早く移動しよう」
叔父さんに促され、僕と咲本は車に乗り込む。
「田舎町だから何もないところだけど、ゆっくりしてってね」
咲本と違って、本当に良い人そうだった。同じ血縁者なのに、どうしてこうも違うのだろうか。
「翔琉と仲良くしてくれてありがとね。変な奴だけど、根は良い奴だから。これからも仲良くしてくれると嬉しい」
「変人に変人呼ばわりされたくないな」
「失礼だぞ」
咲本と一緒にするな、と僕は口を挟む。
叔父さんは気にした様子もなく、「翔琉は相変わらず手厳しいな」と笑う。
「まぁー、否定はしないけどね。ところで、お菓子とか食材はある程度揃えてあるけど、他に必要なものはある?」
そこまで用意してくれてるのかと、僕の中でさらに叔父さんの株が上がる。
「今のところないだろ。あったら、連絡する」
「それだと迷惑かかるじゃん」
咲本の身勝手な発言に、僕はまたしても間に入る。
「翔琉の言うとおりだ。何が欲しいかなって、今は分からないもんね」
穏やかな性格なのか、叔父さんはどんなに無礼な咲本の態度にも寛容だった。
「……すみません」
「何も悪いことをしてないんだから、謝ることないよ」
咲本の代わりに謝る僕に、叔父さんはそう言って鷹揚に笑った。
車が止まった先は、一件の広い平屋の家だった。昔の資産家みたいな邸宅を前に、僕は呆気に取られていた。
祖父が社長なだけあって、親族も金持ちなのかもしれない。
これだけ広かったら、叔父さんの家族も一緒に住んでいてもおかしくなかった。
叔父さんが鍵を開けて、玄関を開ける。僕は「お邪魔します」と言って、足を踏み入れた。
「好きに使って貰って良いからね。昔ながらの家だから、所々古いけど……まぁー、生活には困らないと思う。でも、何か困ったことがあったら、すぐに連絡してくれて構わないから」
綺麗に使われているのか、邸宅内はきちんと整頓されていた。
居間に荷物を置かせてもらい、お風呂の使い方やトイレの場所の説明を聞く。
「叔父さんが、迎えに来てるはずだ」
駅に着いて改札を抜けるなり、咲本がキョロキョロと辺りを見渡し始める。
もっと田舎町を想像していた僕は、駅周辺が意外と建物が多いことに驚く。
大きなロータリーにはタクシーやバス停もあり、人の姿もそれなりにあった。
だけど、やっぱり人から醸し出される雰囲気がどこか違う。何だかゆったりとしているというか、年寄りが多いようにも感じられた。
「あ、あれだ」
咲本がスマホ片手に、シルバーの車に向かって歩き出す。
僕も一緒についていくと、中から優しそうな眼鏡の中年男性が降りてくる。
「お世話になります」
僕が挨拶すると「祐智くんだよね。こちらこそ、よろしく」と、愛想の良い笑顔で返してくれる。
よかった良い人だと、僕はほっとした。
「翔琉くんも久しぶりだね。今日は遠路はるばる来てくれてありがとう」
「別に良いって。気にすんな」
何でそんな偉そうなんだよと、僕は咲本を睨む。
「暑いよね。早く移動しよう」
叔父さんに促され、僕と咲本は車に乗り込む。
「田舎町だから何もないところだけど、ゆっくりしてってね」
咲本と違って、本当に良い人そうだった。同じ血縁者なのに、どうしてこうも違うのだろうか。
「翔琉と仲良くしてくれてありがとね。変な奴だけど、根は良い奴だから。これからも仲良くしてくれると嬉しい」
「変人に変人呼ばわりされたくないな」
「失礼だぞ」
咲本と一緒にするな、と僕は口を挟む。
叔父さんは気にした様子もなく、「翔琉は相変わらず手厳しいな」と笑う。
「まぁー、否定はしないけどね。ところで、お菓子とか食材はある程度揃えてあるけど、他に必要なものはある?」
そこまで用意してくれてるのかと、僕の中でさらに叔父さんの株が上がる。
「今のところないだろ。あったら、連絡する」
「それだと迷惑かかるじゃん」
咲本の身勝手な発言に、僕はまたしても間に入る。
「翔琉の言うとおりだ。何が欲しいかなって、今は分からないもんね」
穏やかな性格なのか、叔父さんはどんなに無礼な咲本の態度にも寛容だった。
「……すみません」
「何も悪いことをしてないんだから、謝ることないよ」
咲本の代わりに謝る僕に、叔父さんはそう言って鷹揚に笑った。
車が止まった先は、一件の広い平屋の家だった。昔の資産家みたいな邸宅を前に、僕は呆気に取られていた。
祖父が社長なだけあって、親族も金持ちなのかもしれない。
これだけ広かったら、叔父さんの家族も一緒に住んでいてもおかしくなかった。
叔父さんが鍵を開けて、玄関を開ける。僕は「お邪魔します」と言って、足を踏み入れた。
「好きに使って貰って良いからね。昔ながらの家だから、所々古いけど……まぁー、生活には困らないと思う。でも、何か困ったことがあったら、すぐに連絡してくれて構わないから」
綺麗に使われているのか、邸宅内はきちんと整頓されていた。
居間に荷物を置かせてもらい、お風呂の使い方やトイレの場所の説明を聞く。
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