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誘いの夏
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しおりを挟む「あっ、祐智くん」
「……どうも」
少しドギマギしながら、僕は挨拶をする。
「これから出かけなくちゃいけないの。おもてなしできなくてごめんね」
「別にお構いなく。荷物を届けに来ただけですから」
デートなのかと、僕はお姉さんの嬉しそうな表情とはっきりとした化粧で察する。
「ああ、叔父さんの家に泊まるんだっけ」
少しだけ、お姉さんの顔が曇る。
僕はそこで初めて、咲本の親族の家に泊まることを知った。
詳しく聞こうとしたとき、お姉さんの背後から「早く行きなよ」と声がした。
どこか強ばった声音の咲本は、不機嫌にも感じ取れる。
「分かってるって」
それからお姉さんを僕を見て、困ったように笑んだ。
「昔は甘えん坊だったのに、なんか大きくなるにつれて、私に冷たいのよ。反抗期なのかなー」
それから行ってきますと言い残して、お姉さんは少し早い足取りで出かけていった。
「叔父さんの家なんだって? 何で教えてくれないんだよ」
僕は何食わぬ顔をして靴を脱ぐ。
下手に励ましたりからかったりするよりも、今は普通に接して欲しいはずだ。
「気兼ねなく過ごせる環境に、もってこいなんだよ。庭もひれーしな」
咲本が背を向けて、先だって歩き出す。
「でもさ、叔父さんもいるんでしょ? 気ぃ使うよ」
「だーいじょうぶだって。その日は俺たちだけだからさ」
「じゃあ、叔父さんはどうするの?」
僕は咲本の部屋に入るなり、荷物を置く。
「何を心配してるんだ? 叔父さんはもう四十五歳だぞ。いい大人なんだから自分で何でも出来る」
咲本がテーブルの前に座りながら、一つ溜息を吐いた。
すでに用意されていたオレンジジュースをコップに注ぎ、僕に渡してくる。
「そういう事じゃなくて……」
「まぁー、別に気にすんなって。それより、どうだったんだ? イチャイチャ出来たのか?」
相変わらず語弊があるけれど、僕は祖父母の家での出来事をかいつまんで話した。
話したといっても、祖父と一緒に釣りをしたとか、スイカを食べたとか当たり障りのないことだ。
「そうじゃなくてさ。彼女とどうイチャイチャしたのか、俺は聞いてんだけど」
咲本が不機嫌そうに腕を組んだ。
「イチャイチャしてないから」
「別に隠すなよ。俺とお前の仲だろ」
だからこそ、あまり言いたくないんだと僕は内心で溜息を吐いた。
あと何日もない咲本との旅行。
それを目前にして、やっぱり連れて行くのを止めようかと、僕は悩まずにはいられなかった。
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