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立夏の落恋
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しおりを挟む「一瞬、本当の事を言ってやろうかと思った」
僕は堪えきれず「やめた方がいい」と叫んでいた。
咲本が肩を落とす。影の落ちた横顔は、苦い笑みをかたどっていた。
「……そういうと思った。だからやめた。どうせアイツらには到底、理解できないだろうしな」
僕は微かに震えていた。
自分が感じた、かつての痛みと苦しみを思い出していたのだ。
きっと、それが咲本だったら、人気があるが故に周囲からの反響も大きいと容易に分かる。
「まぁー、俺がバレたら、祐智が離れてくかもしれねぇーしな。さすがにそれは嫌だからな」
「そんな薄情じゃないよ。僕は」
僕はキッパリと告げる。
「僕は咲本に助けられたんだ。だから今、こうして生きてる。僕はどんなに変人な咲本でも、味方でいるつもりだから」
たとえ周囲が後ろ指を指そうとも、僕だけは咲本の味方でいようと決めていた。
誰か一人でも身近に共感してもらえる人間がいるだけで救われる。
そのことを僕は身を持って知っていた。
「離れたくないだなんてな。祐智にそこまで言われると、なんだか照れる」
咲本はまんざらでもない顔をする。さっきまでどこか翳りがあっただけに、普段なら見過ごさない誤解でも、僕は否定しなかった。
恩があるし、情もあるからこそ、咲本が僕を事件に巻き込んできても一緒にいるのだから。
「ところでその犯人の先輩は、この事知らないんでしょ? 良いの?」
僕は気になっていた。他の人が謝ってきたところで、本人が反省しなければ意味が無い。それに更なる逆恨みだって、あり得るはずだ。
「まぁーその三年の彼女は別れるって言ってるし、自業自得だな。またなんかしてきたら、その時は何が何でも警察に突き出してやる。彼女にもそう伝えとけって、言っといたから平気だろ」
強気な咲本の態度に、僕はひとまず安心する。もっと落ち込むか怒り狂うと思っていたけれど、その心配はなさそうだった。
「そういえば、祐智は座敷童子に会ってたな。どこで知り合ったんだ?」
すっかり忘れていたが、僕はその事を含めて話をするつもりだった。
僕はポツポツと経緯を話した。
話す度に彼女の顔があやふやになっていくことに、僕は恐ろしさ以上に寂しさを感じていた。
「やっぱり座敷童子だな」
「なんでそう思うの?」
僕はまだ、人間説を捨てきれないでいた。
「だって、そいつは誰にも気づいてもらえないって、言ったんだろ? 周りには見えないって事だろ」
そこで僕はハッとした。僕が彼女を見つけた時、彼女は確か「私に気づいたの?」と言っていた。
僕はてっきり体育祭の事を指しているのだと思っていた。
「祐智は純粋だからな。人には見えないものが見えちゃうんだろ」
咲本が一人納得したように頷く。
「じゃあーどうして、咲本にも見えるの? その理論だったらあり得なくない?」
ムキになって言い返すと、「俺も心は純粋って事だろ。祐智はまだ俺のことをちゃんと知らないんだな」と咲本は、いつもの呆れた目をした。
「知ってるからこそ言ってるんだ。咲本が純粋なら、世の中全員純粋な人のはずで、犯罪なんか起きないよ」
「なんかその例えといい、ムキになる感じといい、なんだか小学生みたいだな」
ニヤニヤする咲本に、僕は怒って立ち上がる。もちろん紙袋を持ってだ。
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