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立夏の落恋
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しおりを挟む放課後になり、咲本が「呼び出されたから、その辺ぶらついといて」と言ってきた。
「じゃあー、先帰ってるよ」
待っている理由もないとばかりに、僕は鞄を手に持つ。
「事件の真相が、分かるかもしれない」
その言葉に、僕は動きを止める。
「呼び出してきたの、騎馬隊の一人だから」
「分かった……じゃあー、図書室にでもいるよ」
いくら咲本とはいえ、少なからず人の心があるはずだ。これが故意の事故だと判明すれば、ショックがないとは言い切れない。
そのフォローをするのが僕で良いのかは置いておいて、咲本が引き止めるなら仕方がないと僕は自分を納得させたのだった。
咲本を待つ間、僕は図書室に向かった。
暇を潰すなら構内でここぐらいしか、思い当たらなかったのだ。
試験前ということもあって、人がいるかと思ったけれど、意外と中は閑散としていた。
迷うことなく僕は、日本文学の棚へと足を向ける。
好きな作家がいて、僕はその作家の作品によって、励まされている時期があったからだ。
その作家の作品の一つに、自分と同じ恋愛をしている登場人物がいる。たとえフィクションであったとしても、僕にとっては同士を得たような気持ちになっていた。
それと同時に、自分も同じ末路を辿るのではとすら恐怖も感じていた。
棚の間を歩きながら、僕はその作家を探す。棚から棚へと移ろうとした時――窓際に人の姿を見つけ、僕は思わず足を止めた。
あの体育祭の時にいた女子生徒が、窓下の棚に腰掛けていたのだ。
咲本は座敷童子だとか言ってたけど、どう見ても普通の生徒だった。
彼女は僕の視線に気づいたらしく、こちらを向いた。
「あの時――」
僕が言いかけると、「私に気づいたの?」と彼女は大きめの目を見開く。
「うん。それで聞きたいことが、あるんだけど……」
三年ぽくないと勝手に推測をして、僕はタメ口で続けた。
「こないだの体育祭の時、君は見てたよね? 騎馬から人が落ちるとこを」
瞬時に彼女の顔が、こわばった。
今にも逃げ出しそうな雰囲気に、僕は慌てて「ただ確認したいだけ」と付け足した。
「別に誰に言うわけじゃないんだ。ただ、落とされた本人が、疑心暗鬼になってるみたいで」
彼女の表情は硬いままだったけれど、ゆっくりと口を開いた。
「分かるの……私。これから悪い事が起こる人が」
ぽつりと、彼女が呟く。
「だから咲本のことをずっと見てたの?」
肯定するように、彼女が頷く。
「止めたいんだけど、私が言っても聞いてもらえないから……それに正確な時間も内容も分からないから、どちらにしても気をつけてぐらいしか言えない」
彼女は悲しそうに目を伏せる。長いまつ毛に縁取られた目元が、憂いを帯びている。
とても綺麗な子だなぁと、僕はこんな時なのに思っていた。
普段は女の子に全く興味がなかっただけに、僕自身驚きだった。
「そっか。信じてもらえなかったら辛いよね」
「うん。だから気づいてくれて、すごく嬉しい」
彼女が悲しそうな笑みを僕に向ける。
僕はやや舞い上がってしまい、「僕は信じるよ」と力強く言った。
「ありがとう」
やっと彼女の顔が明るくなる。
僕はそこで、名前や学年を聞いておこうと思った。
彼女の能力は少しオカルトじみていて怖いけど、この機会を逃したらまたどこで会えるか分からない。
それに咲本の事件を事前に感じ取り、もしかしたら現場をしっかり見ていた可能性だってある。
僕は自分の中で言い訳を組み立てると、「あのさ」と切り出した。
「祐智」
背後から名前を呼ばれ、僕は振り返る。
そこには咲本が眉根を寄せて、背後に立っていた。
僕が彼女を紹介しようとしたところで「お前、何してんだ?」と、咲本が怪訝そうな顔をする。
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