咲本翔琉は僕を巻き込む

箕田 はる

文字の大きさ
上 下
12 / 72
立夏の落恋

4

しおりを挟む

「ちゃんと見てたか?」

 どかりと椅子に腰を下ろす咲本に、僕は「うん」と返す。

「おいおいおい。ボッーとした顔してんじゃん。俺の勇姿に惚れたとか」
「いや、違うから。そこにいた制服姿の女子生徒が、こっちを見てて」

 僕がそちらに視線を向けると、さっきまでフェンスに寄りかかっていた女子生徒が消えていた。

「あー、座敷童子じゃねぇ」
「座敷童子?」

 突拍子もない言葉に、僕は思いっきり顔を顰めた。

「そうそう。うちの学校いるらしいぜ。ただし、幸運を運ぶんじゃなくて、不幸だけどな」

 椅子にもたれ掛かり、咲本がペットボトルに口をつける。

「でも、普通に生徒っぽかったよ。座敷童子って、小さい女の子で着物着てたりしなかったっけ?」

 僕はよく、テレビで紹介されるような容姿を想像していた。

「そんなわけねぇだろ。ここで着物なんか着てたら、それこそバレバレじゃねーか」

 咲本は何がそんなに面白いのか、爆笑している。

「旅館だから着物、学校なら制服に決まってるだろ。病院だったら看護服か白衣だし」

 それはもはや座敷童子じゃなくて、呪縛霊じゃないのかと僕は思う。

「なんか咲本のこと、見てたっぽいけど」

 視線が咲本を追っていたように、僕は感じていた。

「ファンとかじゃないの?」
「だったら残念だったな」

 咲本がぼやいたところで、「さきもとー」と三年の生徒がこちらに向かって叫んだ。

「ちょっと行ってくるわ」

 嫌そうな顔をした咲本が立ち上がり、呼んだ生徒の方へ向かう。
 僕はもう一度さっきの場所を見る。やっぱり誰もいない。周囲を見渡して制服姿の人間を探してみても、みんなジャージ姿だ。
 腑に落ちないでいると、咲本が不機嫌そうに戻ってくる。

「昼行こうぜ」

 そう言って僕の腕を引く。時計を見れば、後五分ほどで昼食の時間になる。
 放送で中間発表をしているようで、立ち去る僕らを尻目に、そこら中から歓声の声が聞こえていた。



 僕たちは人の姿が少ない校内を歩いて、屋上へと向かった。
 さっきまでとは打って変わって、咲本は不機嫌だった。どかりと腰を下ろすなり、早々に焼きそばパンの袋を開け始める。

「どうしたの?」

 さすがに無視できずに問うと、「あの三年まじムカつく」と低い声で言った。
 変わったところはあれど、それは個性とばかりに何故か不思議と人付き合いがうまく出来てる咲本にしては、珍しい愚痴だった。

「騎馬戦で組む三年が、やたら俺にケチつけてくんの。誰がどう見たって、下の陽動が悪りぃのにさ」

 むしゃくしゃした気持ちを表すように、咲本が焼きそばパンを頬張る。

「そんな人と一緒に組むのは嫌だね。練習の時から?」
「いいや。急に当たりが強くなった。組んだ時はよろしくな! ってどこぞの熱血バカみたいに暑苦しかった癖に」
「気に触る事でも、咲本が言ったんじゃないの?」

 年中、咲本の狂言に触れてる僕としては、それが一番思い当たる節だった。

「ないね。そもそも、くだらない恋人自慢ばっかりで、こっちは相槌ぐらいしか打ててねぇーし。壁に向かって話してるのと、変わらないぐらいにしか思ってねぇよ」
「うーん。相槌の打ち方に、問題があったのかも」
「まぁーとにかく、こんな厄介な三年とは今日でおさらばだから」

 残りの焼きそばパンを口に入れると、咲本はお茶で流し込んだ。
 僕も鮭おにぎりを食べて、それから梅おにぎりに手を付ける。
 その後も咲本はやや不機嫌なまま、グラウンドに戻り、次の競技に備えていた。
 僕も参加しなきゃいけない種目がある。
 昼食後に応援合戦をして、それから僕は綱引きに参加した。
 久々に綱を引いたせいか、僕の掌が少しだけ擦りむけてしまう。
 どんだけ柔なんだと、自分で自分が情けなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

パラサイト/ブランク

羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。

【完結】知られてはいけない

ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 (第二回きずな文学賞で奨励賞受賞)

ラヴィ

山根利広
ホラー
男子高校生が不審死を遂げた。 現場から同じクラスの女子生徒のものと思しきペンが見つかる。 そして、解剖中の男子の遺体が突如消失してしまう。 捜査官の遠井マリナは、この事件の現場検証を行う中、奇妙な点に気づく。 「七年前にわたしが体験した出来事と酷似している——」 マリナは、まるで過去をなぞらえたような一連の展開に違和感を覚える。 そして、七年前同じように死んだクラスメイトの存在を思い出す。 だがそれは、連環する狂気の一端にすぎなかった……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

182年の人生

山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。 人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。 二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。 (表紙絵/山碕田鶴)  ※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。本日「64」まで済。

禁忌index コトリバコの記録

藍沢 理
ホラー
都市伝説検証サイト『エニグマ・リサーチ』管理人・佐藤慎一が失踪した。彼の友人・高橋健太は、佐藤が残した暗号化ファイル「kotodama.zip」を発見する。 ファイルには、AI怪談生成ブログ「コトリバコ」、自己啓発オンラインサロン「言霊の会」、そして福岡県██村に伝わる「神鳴り様」伝承に関する、膨大な情報が収められていた。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...