9 / 72
立夏の落恋
1
しおりを挟む学校生活で、一番目に嫌いなこと。
それは僕だけの話ではなく、そんな生徒は他にもいるはずだ。
そう、それはゴールデンウィークの最中に行われる体育祭。
何でわざわざ休みの間に入れるんだ、とその神経を疑いたくなるが、僕はそれを訴えられるほど肝は座っていなかった。
チームはクラスごとに分けられており、AからDクラスまでの四チームで、一年から三年合同で力を合わせて戦う。
僕は今年、二年A組だからA組の一年と三年とでやる。懸念すべき点として、熱血系の三年生がいるクラスだと、わざわざ喝を入れに来ることだった。
僕からしてみたら、やりたい奴がやれば良い、僕を巻き込むなと思うのだけど、学校生活で普通に生きていくには、苦行に耐えなきゃいけない事もあるのだと学んでいた。
「祐智、元気ないな。もしかして、高校生にもなって雨降らないかなとか思ってたんじゃないのか?」
ニヤニヤしながら僕の肩を叩くジャージ姿の咲本に、僕は恨みがましい目を向ける。
「せっかくの休みを潰したの誰だよ」
ゴールデンウィークは家でゆっくり過ごそう、体育祭に向けて無駄な体力は使わないようにしよう。もしくは、なかなか会えなかった澄子さんに会いに行くのも良いかもしれない。
そう、僕はそう決めていたはずだった。
それなのに結局は咲本に呼び出され、僕はヘトヘトのまま体育祭を迎えていた。
「仕方ないだろ。引きこもり気味の祐智に外の空気を吸わせるのは、俺の義務だからな」
「別に頼んでないし」
「祐智のお母さんから頼まれてるんだよ。仲良くしてねって」
「あのさー社交辞令だって、分からないの?」
「親の愛だろ。羨ましいよ」
その一言に僕は言葉を詰まらせる。咲本がなんて事ない表情であっても、どうしても深刻になってしまう。
「おいっ、同情は禁止だろ」
ピシッとデコピンされ、僕は「イテッ」と声を上げる。
「お前たち仲良いな。これから戦だっていうのに、いちゃつくなよ」
クラスメイトの一人が囃し立てる。いつの間にか注目を浴びていたらしく、僕はムスッとして咲本から離れる。
「あんまり祐智を揶揄うなよ。俺といてくれなくなるだろ」
忍び笑いする女子や合いの手を入れる男子を咲本が諫める。
僕は逃げるように一人、トイレへと向かう。
誰もいないトイレで一息つき、手を洗う時に自分の顔を見た。やや青ざめた自分の顔に目を背ける。
逃げるように出てきてしまったけれど、変に思われなかったか。今更のように不安が過ぎる。
だけど僕には、あの嘲笑するような視線が苦手だった。
昔のことを思い出し、吐き気すら込み上げてしまう。
しばらく水道から流れる水を眺めていると、背後から名前を呼ばれる。
慌てて振り返ると、そこには咲本の姿があった。
「大丈夫か? もうすぐ始まるぞ」
「……うん」
僕は水道を止めて、ポケットからハンカチを取り出す。
「嫌なら、一緒に逃げても良いんだぞ」
「何それ、体育祭如きで大袈裟だよ」
僕は手を拭きながら、笑みを作る。
「ほら、行こ。遅れるとまた面倒くさいから」
そそくさと、トイレを後にする。
咲本の視線が煩かったけれど、僕は気付かないふりをした。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
パラサイト/ブランク
羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。
【完結】知られてはいけない
ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。
他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。
登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。
勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。
一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか?
心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。
(第二回きずな文学賞で奨励賞受賞)
ラヴィ
山根利広
ホラー
男子高校生が不審死を遂げた。
現場から同じクラスの女子生徒のものと思しきペンが見つかる。
そして、解剖中の男子の遺体が突如消失してしまう。
捜査官の遠井マリナは、この事件の現場検証を行う中、奇妙な点に気づく。
「七年前にわたしが体験した出来事と酷似している——」
マリナは、まるで過去をなぞらえたような一連の展開に違和感を覚える。
そして、七年前同じように死んだクラスメイトの存在を思い出す。
だがそれは、連環する狂気の一端にすぎなかった……。
182年の人生
山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。
人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。
二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。
(表紙絵/山碕田鶴)
※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。本日「64」まで済。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/3/6:『よふかし』の章を追加。2025/3/13の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/5:『つくえのしたのて』の章を追加。2025/3/12の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/4:『まよなかのでんわ』の章を追加。2025/3/11の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/3:『りんじん』の章を追加。2025/3/10の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/2:『はながさく』の章を追加。2025/3/9の朝8時頃より公開開始予定。
2025/3/1:『でんしゃにゆられる』の章を追加。2025/3/8の朝8時頃より公開開始予定。
2025/2/28:『かいじゅう』の章を追加。2025/3/7の朝4時頃より公開開始予定。
二人称・短編ホラー小説集 『あなた』
シルヴァ・レイシオン
ホラー
普通の小説に読み飽きたそこの『あなた』
そんな『あなた』にオススメします、二人称と言う「没入感」+ホラーの旋律にて、是非、戦慄してみて下さい・・・・・・
※このシリーズ、短編ホラー・二人称小説『あなた』は、色んな"視点"のホラーを書きます。
様々な「死」「痛み」「苦しみ」「悲しみ」「因果」などを描きますので本当に苦手な方、なんらかのトラウマ、偏見などがある人はご遠慮下さい。
小説としては珍しい「二人称」視点をベースにしていきますので、例えば洗脳されやすいような方もご観覧注意、願います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる