咲本翔琉は僕を巻き込む

箕田 はる

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立夏の落恋

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 学校生活で、一番目に嫌いなこと。
 それは僕だけの話ではなく、そんな生徒は他にもいるはずだ。
 そう、それはゴールデンウィークの最中に行われる体育祭。
 何でわざわざ休みの間に入れるんだ、とその神経を疑いたくなるが、僕はそれを訴えられるほど肝は座っていなかった。
 チームはクラスごとに分けられており、AからDクラスまでの四チームで、一年から三年合同で力を合わせて戦う。
 僕は今年、二年A組だからA組の一年と三年とでやる。懸念すべき点として、熱血系の三年生がいるクラスだと、わざわざ喝を入れに来ることだった。
 僕からしてみたら、やりたい奴がやれば良い、僕を巻き込むなと思うのだけど、学校生活で普通に生きていくには、苦行に耐えなきゃいけない事もあるのだと学んでいた。

「祐智、元気ないな。もしかして、高校生にもなって雨降らないかなとか思ってたんじゃないのか?」

 ニヤニヤしながら僕の肩を叩くジャージ姿の咲本に、僕は恨みがましい目を向ける。

「せっかくの休みを潰したの誰だよ」

 ゴールデンウィークは家でゆっくり過ごそう、体育祭に向けて無駄な体力は使わないようにしよう。もしくは、なかなか会えなかった澄子さんに会いに行くのも良いかもしれない。
 そう、僕はそう決めていたはずだった。
 それなのに結局は咲本に呼び出され、僕はヘトヘトのまま体育祭を迎えていた。

「仕方ないだろ。引きこもり気味の祐智に外の空気を吸わせるのは、俺の義務だからな」
「別に頼んでないし」
「祐智のお母さんから頼まれてるんだよ。仲良くしてねって」
「あのさー社交辞令だって、分からないの?」
「親の愛だろ。羨ましいよ」

 その一言に僕は言葉を詰まらせる。咲本がなんて事ない表情であっても、どうしても深刻になってしまう。

「おいっ、同情は禁止だろ」

 ピシッとデコピンされ、僕は「イテッ」と声を上げる。

「お前たち仲良いな。これから戦だっていうのに、いちゃつくなよ」

 クラスメイトの一人が囃し立てる。いつの間にか注目を浴びていたらしく、僕はムスッとして咲本から離れる。

「あんまり祐智を揶揄うなよ。俺といてくれなくなるだろ」

 忍び笑いする女子や合いの手を入れる男子を咲本が諫める。
 僕は逃げるように一人、トイレへと向かう。
 誰もいないトイレで一息つき、手を洗う時に自分の顔を見た。やや青ざめた自分の顔に目を背ける。
 逃げるように出てきてしまったけれど、変に思われなかったか。今更のように不安が過ぎる。
 だけど僕には、あの嘲笑するような視線が苦手だった。
 昔のことを思い出し、吐き気すら込み上げてしまう。
 しばらく水道から流れる水を眺めていると、背後から名前を呼ばれる。
 慌てて振り返ると、そこには咲本の姿があった。

「大丈夫か? もうすぐ始まるぞ」
「……うん」

 僕は水道を止めて、ポケットからハンカチを取り出す。

「嫌なら、一緒に逃げても良いんだぞ」
「何それ、体育祭如きで大袈裟だよ」

 僕は手を拭きながら、笑みを作る。

「ほら、行こ。遅れるとまた面倒くさいから」

 そそくさと、トイレを後にする。
 咲本の視線が煩かったけれど、僕は気付かないふりをした。
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