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同情の春
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しおりを挟む「ほら、下りろ」
「へ?」
「お前じゃあ、捕まる」
首を傾げている僕にお構いなしで、咲本が僕を自転車から下ろす。それから咲本が自転車に跨がると、「ほら、乗れよ」と言った。
「自分の自転車は? てか怒られるし、捕まるよ」
「だから言ってるだろ。お前じゃ無理だから、俺が漕いでやるって」
さっさとしろと続けられ、仕方なく僕は周囲を見渡してから荷台に跨がる。
誰かに叱られることを嫌う僕としては、咲本の提案はとてつもなく心臓に悪い。だけど、ぐだぐだしたところで、咲本が引かないことも分かっていた。
「振り落とされるなよ」
そう言って、咲本は自転車のペダルを踏んだ。ぐっと、一気に加速する。
「捕まっても良いから、安全運転で!」
何かあってからじゃあ遅い。
僕は不安と恐怖で心臓を震わせながら、咲本の背に捕まったのだった。
目的のN公園に着いた時、僕はすでに疲労困憊だった。覚束ない足取りで公園内に足を踏み入れる。
小学生ぐらいの男の子たちが、鬼ごっこをやっているぐらいで、人の姿はまばらだ。
「何でお前が疲れてるんだ。配送代として、ジュース奢れよ」
「イヤだよ。僕は強引に連れてこられたんだ。逆に慰謝料貰いたいぐらいだ」
僕は自転車を降りて早々に、ベンチの方へと足を向ける。
「ちゃんと見つからないように、走ったじゃないか。何が不満なんだよ」
自転車の鍵を掛けた咲本が、僕の隣にかけてくる。
「もういいよ……それより、昨日のなんなの? マジで訳分からないし、怖かったんだけど」
この答えを得るために、僕は二人乗りという犯罪を犯してまで、咲本に付き合っている。
咲本は「まぁ、落ち着けって」と言って、僕の隣に腰掛けた。
「先週ぐらいだったかなぁ。気晴らしに散策でもしようと思って、山ん中歩き回ってたんだよ。そしたら、木に藁人形が打ち付けてあって。でな、こんなとこにあったら、風紀が乱れるだろ? だから俺は、それを近くにあった川に供養したんだ。それで――」
「ちょっと待って! 抜いて流したって、本当にそれで供養になるの?」
普通なら近寄るのも倦厭するはずなのに、咲本は平然としている。まぁーそれは咲本だから仕方ないとして、川で流すのが正しいのか、それは疑問だった。
「そうじゃねぇの。だって、てるてる坊主も、御神酒を供えて流すって言うじゃないか」
「そんなの知らないよ」
「とにかく、俺はそれを川に流した。そしたら、あの女が現れて、返せって言ってきたわけだ。お前も知っての通り、見つけなかったら呪い殺すって言ってな。だったら流す前に、出てこいっつーの」
咲本がはぁーと息を吐く。
「それならあのとき、暢気にカッパなんか釣ってる場合じゃなかったじゃん」
そこで咲本は目を見開き、僕を凝視する。
「お前まさか、本気でカッパが釣れるって思ってるのか?」
その問いに今度は僕が驚いて、「えっ?」と声を上げる。
咲本は「釣れるわけねぇじゃん」と笑う。
「でも咲本が――」
「だって、あいつらそんなに馬鹿じゃないだろ」
僕は色々な意味で、唖然とした。
「じゃあ、どうしてカッパを釣るだなんて言ったんだよ」
「そりゃあ、カッパ釣るとでも言わなきゃ、祐智は怖がって帰ってただろ」
「カッパだからって、別にいたいと思わないから」
何がどうしたら、カッパを釣るという話に釣られると思えるのか。現にくだらないと帰ろうとしたはずだ。
「まぁーとにもかくにも、お前は見事に発見してくれた。探し物を得意とするだけあって、さすがだな」
「別に得意じゃないし……」
確かに探し物をして、見つかることは多かった。別に困ることでもないし、それを得意と思う程には気にしてもいない。
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