咲本翔琉は僕を巻き込む

箕田 悠

文字の大きさ
上 下
4 / 72
同情の春

4

しおりを挟む

 翌日も学校が終わって早々に、僕は咲本に連れられ、山を流れる川に向かった。
 今日こそは逃げようと思っていたけれど、「事が片付くまで付き合うなら、好きなフレーバーのマシュマロを買ってやる」という言葉に、カッパではなく、僕が釣れたのだった。
 カッパなんているはずがない。どうせ見つかることがないのだから、マシュマロを永久に食べ放題じゃないかと、安直な提案をした咲本に内心ほくそ笑んでいた。
 川に着くと早速、僕は咲本からマシュマロを貰って食べようと、期待に満ちた顔で咲本を見る。
 だが、咲本から渡されたのは学校から借りてきた、たも網だった。

「えっ、なんで僕まで」
「働かざる者食うべからずだろ。知らないのか?」

 絶句する僕に、咲本はもう一個のたも網を組み立て始める。
 仕方なく僕も咲本の手本を横目に、たも網を引き伸ばす。

「で? どうすればいいの?」

 僕はふて腐れたように聞くと、咲本が仕方ないなと言った顔で肩掛けバッグを漁る。
 それから紙袋を取り出し、さらにその口を開けてからマシュマロを取り出した。

「ほらよ。口開けろよ」

 自分で食べると言おうと口を開いた途端、マシュマロを突っ込まれる。
 僕は咲本を睨みながらそれを咀嚼する。中から溢れてくるサクランボの甘酸っぱさに、少しだけ溜飲が下がってしまう。

「前払いだ。しっかり働け」
「偉そうに言うなよ」

 不満はあれども、マシュマロを食べた以上は、どんな言い訳も出来やしない。
 仕方なく咲本が川面をかき回している場所から少し離れた場所へと、視線を向ける。
 ふと、向こう岸に誰かがいる気配があった。
 昨日に比べて早い時間に来ているが、それでも木々に覆われている場所は木陰で薄暗い。その中に遠目からでは分かりづらいが、女の人が立っているように見えるのだ。昨日と同じ白っぽい服を着ているようで、その姿はぼんやりとしていた。
 近づこうか迷ったが、こんな時間に女性一人という異様な状況に、イヤな予感しかしなかった。
 僕はあえてそちらに近づかないようにしつつ、安定していそうな大岩に飛び移ったりした。
 早く済ませて帰りたい。だけど、カッパなんて見つかるはずもなく……結局は咲本が納得するまでは、今日も帰れそうもなかった。
 僕は恐怖を強引に振り切る形で、桜の花びらや葉っぱが流れる川面にタモ網を突っ込んだ。
 カッパは無理でも、せめて川魚ぐらいは取れるかもしれない。こんなくだらない課題の中でも、せめてもやりがいを見いだそうとして、僕はひたすらに手を動かした。
 川の流れに逆らうとやや重く、沿うように動かすとスムーズになる。そんな感覚もまた新鮮で、案外悪くないなと僕は感じていた。
 咲本の方を見ると、真剣な表情で川面を見つめている。
 残念なイケメンとは、咲本をさすんだろうなと僕は彼を哀れに思う。それから咲本に好意を抱く、何も知らない女子達に同情を禁じ得なかった。
 本格的に日が暮れ始め、そろそろやばいかな、と思った頃。
 唐突に何かが網にかかった感覚があった。
 僕は「あっ」と大きな声を上げ、それから勢いよく網を持ち上げる。だが、魚のような活きの良い動きは感じられず、僕はゴミでも拾ったかと棒を手繰る。

「見つけたのか?」

 咲本が遠くから叫ぶ。
 僕は「分からない」と返しながら、桜の花びらや落ち葉の混ざった網を覗き込む。
 網の中には、何やら茶色い藁の塊のような物が入っていた。
 何だゴミかと、がっかりしたところで、咲本が僕の背を叩いた。危うく落ちかけ、僕は慌てて体勢を整える。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鈴ノ宮恋愛奇譚

麻竹
ホラー
霊感少年と平凡な少女との涙と感動のホラーラブコメディー・・・・かも。 第一章【きっかけ】 容姿端麗、冷静沈着、学校内では人気NO.1の鈴宮 兇。彼がひょんな場所で出会ったのはクラスメートの那々瀬 北斗だった。しかし北斗は・・・・。 -------------------------------------------------------------------------------- 恋愛要素多め、ホラー要素ありますが、作者がチキンなため大して怖くないです(汗) 他サイト様にも投稿されています。 毎週金曜、丑三つ時に更新予定。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

怪異相談所の店主は今日も語る

くろぬか
ホラー
怪異相談所 ”語り部 結”。 人に言えない“怪異”のお悩み解決します、まずはご相談を。相談コース3000円~。除霊、その他オプションは状況によりお値段が変動いたします。 なんて、やけにポップな看板を掲げたおかしなお店。 普通の人なら入らない、入らない筈なのだが。 何故か今日もお客様は訪れる。 まるで導かれるかの様にして。 ※※※ この物語はフィクションです。 実際に語られている”怖い話”なども登場致します。 その中には所謂”聞いたら出る”系のお話もございますが、そういうお話はかなり省略し内容までは描かない様にしております。 とはいえさわり程度は書いてありますので、自己責任でお読みいただければと思います。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

透影の紅 ~悪魔が愛した少女と疑惑のアルカナ~

ぽんぽこ@書籍発売中!!
ホラー
【8秒で分かるあらすじ】 鋏を持った女に影を奪われ、八日後に死ぬ運命となった少年少女たちが、解呪のキーとなる本を探す物語。✂ (º∀º) 📓 【あらすじ】 日本有数の占い師集団、カレイドスコープの代表が殺された。 容疑者は代表の妻である日々子という女。 彼女は一冊の黒い本を持ち、次なる標的を狙う。 市立河口高校に通う高校一年生、白鳥悠真(しらとりゆうま)。 彼には、とある悩みがあった。 ――女心が分からない。 それが原因なのか、彼女である星奈(せいな)が最近、冷たいのだ。 苦労して付き合ったばかり。別れたくない悠真は幼馴染である紅莉(あかり)に週末、相談に乗ってもらうことにした。 しかしその日の帰り道。 悠真は恐ろしい見た目をした女に「本を寄越せ」と迫られ、ショックで気絶してしまう。 その後意識を取り戻すが、彼の隣りには何故か紅莉の姿があった。 鏡の中の彼から影が消えており、焦る悠真。 何か事情を知っている様子の紅莉は「このままだと八日後に死ぬ」と悠真に告げる。 助かるためには、タイムリミットまでに【悪魔の愛読書】と呼ばれる六冊の本を全て集めるか、元凶の女を見つけ出すしかない。 仕方なく紅莉と共に本を探すことにした悠真だったが――? 【透影】とかげ、すきかげ。物の隙間や薄い物を通して見える姿や形。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 表紙イラスト/イトノコ(@misokooekaki)様より

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

5A霊話

ポケっこ
ホラー
藤花小学校に七不思議が存在するという噂を聞いた5年生。その七不思議の探索に5年生が挑戦する。 初めは順調に探索を進めていったが、途中謎の少女と出会い…… 少しギャグも含む、オリジナルのホラー小説。

処理中です...