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同情の春
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しおりを挟む翌日も学校が終わって早々に、僕は咲本に連れられ、山を流れる川に向かった。
今日こそは逃げようと思っていたけれど、「事が片付くまで付き合うなら、好きなフレーバーのマシュマロを買ってやる」という言葉に、カッパではなく、僕が釣れたのだった。
カッパなんているはずがない。どうせ見つかることがないのだから、マシュマロを永久に食べ放題じゃないかと、安直な提案をした咲本に内心ほくそ笑んでいた。
川に着くと早速、僕は咲本からマシュマロを貰って食べようと、期待に満ちた顔で咲本を見る。
だが、咲本から渡されたのは学校から借りてきた、たも網だった。
「えっ、なんで僕まで」
「働かざる者食うべからずだろ。知らないのか?」
絶句する僕に、咲本はもう一個のたも網を組み立て始める。
仕方なく僕も咲本の手本を横目に、たも網を引き伸ばす。
「で? どうすればいいの?」
僕はふて腐れたように聞くと、咲本が仕方ないなと言った顔で肩掛けバッグを漁る。
それから紙袋を取り出し、さらにその口を開けてからマシュマロを取り出した。
「ほらよ。口開けろよ」
自分で食べると言おうと口を開いた途端、マシュマロを突っ込まれる。
僕は咲本を睨みながらそれを咀嚼する。中から溢れてくるサクランボの甘酸っぱさに、少しだけ溜飲が下がってしまう。
「前払いだ。しっかり働け」
「偉そうに言うなよ」
不満はあれども、マシュマロを食べた以上は、どんな言い訳も出来やしない。
仕方なく咲本が川面をかき回している場所から少し離れた場所へと、視線を向ける。
ふと、向こう岸に誰かがいる気配があった。
昨日に比べて早い時間に来ているが、それでも木々に覆われている場所は木陰で薄暗い。その中に遠目からでは分かりづらいが、女の人が立っているように見えるのだ。昨日と同じ白っぽい服を着ているようで、その姿はぼんやりとしていた。
近づこうか迷ったが、こんな時間に女性一人という異様な状況に、イヤな予感しかしなかった。
僕はあえてそちらに近づかないようにしつつ、安定していそうな大岩に飛び移ったりした。
早く済ませて帰りたい。だけど、カッパなんて見つかるはずもなく……結局は咲本が納得するまでは、今日も帰れそうもなかった。
僕は恐怖を強引に振り切る形で、桜の花びらや葉っぱが流れる川面にタモ網を突っ込んだ。
カッパは無理でも、せめて川魚ぐらいは取れるかもしれない。こんなくだらない課題の中でも、せめてもやりがいを見いだそうとして、僕はひたすらに手を動かした。
川の流れに逆らうとやや重く、沿うように動かすとスムーズになる。そんな感覚もまた新鮮で、案外悪くないなと僕は感じていた。
咲本の方を見ると、真剣な表情で川面を見つめている。
残念なイケメンとは、咲本をさすんだろうなと僕は彼を哀れに思う。それから咲本に好意を抱く、何も知らない女子達に同情を禁じ得なかった。
本格的に日が暮れ始め、そろそろやばいかな、と思った頃。
唐突に何かが網にかかった感覚があった。
僕は「あっ」と大きな声を上げ、それから勢いよく網を持ち上げる。だが、魚のような活きの良い動きは感じられず、僕はゴミでも拾ったかと棒を手繰る。
「見つけたのか?」
咲本が遠くから叫ぶ。
僕は「分からない」と返しながら、桜の花びらや落ち葉の混ざった網を覗き込む。
網の中には、何やら茶色い藁の塊のような物が入っていた。
何だゴミかと、がっかりしたところで、咲本が僕の背を叩いた。危うく落ちかけ、僕は慌てて体勢を整える。
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