君との怪異に僕は溺れる

箕田 悠

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最終章「久遠」

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 濡れた頬をそのままに、僕は電車に揺られて自宅の最寄駅で降りる。久しぶりの地元の雰囲気に、懐かしさを感じる余裕など僕にはなかった。それよりも今度会う時に、どういう顔をしたら良いのか、僕はそればかりを考えながら家路をトボトボと歩いていく。

 住宅街に入り僕の家が視界に映り込む。二階建ての一軒家を前にして、僕の足は途端にガクガクと震えだした。

「な……なんで、どうして……」

 外壁には何故か、赤い液体らしきものがベッタリとついていた。家を出た時はこんな風にはなっていなかったはずだ。慌てて玄関の扉を開けようとするも、鍵がかかっていて開かない。

 裏に回ると、リビングの窓ガラスが割れていた。思わず荷物を地面に落としてしまう。一体何が起きているのか分からず、呆然としてその場に座り込む。ガクガクと震えだす足が言うことを聞かずに、立ってはいられなかった。

 震える手で何とかスマホを取り出すと、母親のスマホに電話を入れる。繋がらないので、今度は父親に電話をした。こっちも電話がつながらない。最後の頼みの綱である姉に電話をかける。

 コール音が響く中、祈る思いでスマホを握りしめる。これで電話に出なかったら、警察に電話をしたほうがいいのだろうか。それとも近所の人に助けを求めるべきなのだろうか……焦燥感と不安にかられ、頭の中が真っ白になっていく。

『朔矢? 今何処にいるの?』

 コール音が切れ、姉の声が聞こえてくる。僕は初めて姉の声で安堵した。

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