君との怪異に僕は溺れる

箕田 悠

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第七章「虚像」

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「先輩のせいで、袖がびしょ濡れなんですけど」

 さっきまでの甘い雰囲気など嘘のように、神近くんは文句を言いつつ僕の隣を歩いている。

 汗を掻いて服が湿っていた事と、お祭りまで時間があったことで僕達は一旦は家に戻ることになったのだった。

「えっ……さっきまで、汚くないって言ってたのに……」

「汚くないとは言いましたけど、濡れてないとは言ってないですから」

「そんなの屁理屈だよ」

 僕が唇を尖らせて反論する。さっきの神近くんは、もしかしたら山の神が見せた幻だったのだろうか。

「高校生にもなって号泣だなんて、先輩ぐらいですよ」

「そ、そんな事ないよ! 高校球児とかよく泣くじゃん!」

「涙の種類が違いますから。先輩のはただ泣き虫なだけです」

 やっぱりあれは偽物の神近くんだ。僕はすっかり拗ねてそっぽを向くと黙り込む。

「そういうところ、凄く子供っぽいですよ」

 そう言って神近くんは笑いだした。ここに来て初めてみた神近くんの笑顔に、さすがに僕も口元が緩んでしまう。

「もう子供じゃないよ」

 僕はそう言い返すも、さっきまでの威勢の良さに比べたら衰えてしまう。

「先輩は変わらずに、そのままでいてください」

「それってどういう意味?」

 ずっと子供でいろという事なのだろうか。僕が訝しげな表情を向けるも、神近くんは僅かに口元を緩めているだけで答えてはくれなかった。


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