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第四章
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しおりを挟む黄緑色の光を点滅させ、傍若無人に飛び回っているその発光体は、紛れもなく蛍だった。一匹だけと思いきや、次々と飛び立つように周囲を徘徊していく。
「うわー!」
「蛍だぁー」
ミヨとミコが飛び跳ねながら、クルクルと回り始める。
「綺麗ですね。まるで宝石の粒が飛び交っているようで」
天野は素直な感想を述べるも、ヒスイは返事をしてこない。何かしら返答があってもおかしく無いのにと、天野は訝しげに視線を向け口を噤む。
蛍の淡い光に照らされたヒスイの横顔には、涙の筋が出来ていた。唇を薄っすらと開き、まるで呆気に取られている表情は、深く感動しているように思えてならない。
発光している蛍の光が、涙に色を付けているようだった。翡翠色に輝く瞳から流れ出ている涙は、まるで翡翠の宝石のように美しい。
「あれっ……」
ヒスイがハッとしたように、頬に伝う涙を拭っていく。
「俺……何で涙流してるんだ」
心底驚いた表情のヒスイと目が合い、天野はまで泣き出しそうになってしまう。
「ヒスイさん……泣いたって良いんですよ」
天野はヒスイの手を優しく取り握りしめる。
「別に……勝手に涙が出てきただけだから……」
「ヒスイさんの涙……とても綺麗です。最初に会った時から思っていたのですが、きっとヒスイさんの流す涙は宝石のようなんだろうな、と……」
天野はヒスイの顔を覗き込むように見つめる。翡翠色の瞳が潤み、微かに揺らいでいた。伏せた目元からは、艷やかな雰囲気が漂う。幻想的でいて、その瞳の美しさは今までに見たどんな宝石よりも美麗に見えた。
「幸朗さんもこの瞳の美しさに魅了されて、貴方の名前を付けたのでしょうね」
天野は視線を柳の木の下に向ける。灯籠の淡い朱色の光と、蛍の黄緑色の光が美しい色彩を生み出していた。
「幸朗とやらの顔は覚えてないけど、お前やあいつらとの会話で俺がその名を口にしたのは覚えている。だから全くの知らない奴、というわけじゃないって事は理解しているから……それなのにお前は俺のせいで、幸朗に囚われているような気がしてならない。俺もきっと、前まではそうだったんだろうけど……」
ヒスイの言葉に天野はグッと胸が苦しくなる。最初の頃、ヒスイは幸朗の名を何度も口に出していた。今は逆に、天野の方が幸朗の名を何度も出している。どちらに恋をしているのか、分からないほどに――
「振り返ることも大切だろうけれど、前に進めなくちゃ意味ない。だから――」
翡翠色の瞳が天野に向けられる。その真剣な眼差しに、天野は口を挟むことが出来ないまま見つめ返す。
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