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第三章
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しおりを挟む「此処で一緒に暮らせばいいじゃないか」
恭治が納得がいかないといった顔で、天野の手を握った。恭治の手は熱く、力強かった。
恭治にそう言われることも分かっていたが、これ以上は迷惑をかけるのはどうしても嫌だった。それでなくて成金の家のお嬢さんがこの島に住むとなれば、それなりに奇異の目を向けられるだろう。自分まで一緒となれば、事を複雑にする一方だ。
「……ありがとう。でもこれ以上は迷惑かけたくないんだ……」
恭治の顔を見ることが出来ず、天野はぼんやりと白く輝く砂浜に視線を落とす。
「……蓮介」
名前を呼ばれたことに驚いて天野が顔を上げると、恭治が間近に迫っていた。
「えっ……?」
恭治が天野の肩に手を置くと顔を近づけ、呆然としている天野の唇と重ねる。柔らかい唇の感触と、微かに震えている恭治の手に動揺のあまり立ち尽くす。
唇が離されても言葉を発することが出来ず、天野は恭治をぼんやりと見つめる。どうしてそんな事をしたのか、理解が追いつかないでいた。
「そんな顔するなよ」
困ったように口元を緩める恭治に、一気に羞恥心が湧き上がり頬がカッと熱を持つ。
「俺は約束を守る男だ。でもな――」
恭治が天野の腕を掴み、歩きだした。今度は何処に連れて行くつもりなのかと困惑していると、苦しげな恭治の声が波音と共に聞こえた。
「好きな奴が此処から居なくなるって分かった今、俺は自分を押さえられそうにない」
恭治に引きづられるように連れて行かれたのは、漁師たちが休憩している小さな小屋だった。
卓袱台と座布団に、畳まれている布団が置かれているだけだ。窓から差し込むかすかな光だけが、部屋の中を照らし出していた。
天野を先に入れると、恭治が後ろ手に扉を閉める。余計に部屋が暗くなり、電気を付けようにも恭治に背後から抱きすくめられ、身動きが取れなくなってしまう。
「……恭治? どうしたんだ? 君らしくない」
緊張で心臓の鼓動が激しく打つ。さっきの言動といい、恭治が別人にでもなってしまったのではと思えてならない。
「俺は……お前を好いている」
恭治が天野の耳元で囁くように告げた。その告白に一気に熱に浮かされたように、全身が熱くなる。
「好いてるって……君は何を言って――」
言ってる間に天野の体が反転し、恭治と向い合せになった。
恭治に真剣な眼差しを向けられ、思わず言葉を失う。出会った頃からやたらと世話を焼いてくれていたが、まさか自分に好意があったとは思ってもみなかった。
「お前は俺が嫌いか?」
恭治の見たことのない憂いに満ちた表情に、天野は静かに首を横に振る。
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