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第二章
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しおりを挟む屋敷に戻ると「どこ行ってたんだよ」とヒスイに小言を言われ、いつもなら素直に謝るところだが、視線を逸したまま俯くことしか出来なかった。
ヒスイもそれ以上は何も言ってこず、どこかへ行ってしまう。
「お兄ちゃん?」
「どうしたの?」
二人の手をぎゅっと握ると「なんでもないよ」と言って、二人の部屋に連れて行く。
布団をかけて電気を消すと「おやすみ」と告げて、天野は部屋を出た。
すぐに寝れそうにもなかったので、縁側へと向かう。
梅雨の時期とあってか、月が黒い雲の間を見え隠れしていた。
「寝れないのか?」
少々投げやりな口調に、振り返らなくてもヒスイだと分かる。
「……ちょっと寝すぎたみたいで」
「何? 郷愁に駆られたってやつ?」
「えっ?」
驚いて振り返ると、そこにヒスイはいなかった。
話の途中で居なくなるなんて、まるで猫みたいに気まぐれだ。寂しいようで、可笑しいような。それでも胸が苦しくなった。
幸朗だったらこんな時、なんて言ってヒスイを引き留めたのだろうか。
それどころか引き留めなくとも、幸朗だったらヒスイは傍にいたのかもしれない。
複雑な気持ちで俯いていると、隣に気配を感じて慌てて視線を向ける。
微かに雲間から顔を出した月明かりが、目鼻立ちの整ったヒスイの顔を照らし出していた。
盆が天野との間に置かれ、コトッと小さな音が立つ。そこには、お猪口と徳利が二つずつ置かれていた。
「あいつらからの土産」
ヒスイが徳利から、水銀色に輝く液体を注いでいく。
「酒ぐらい飲めるでしょ」
「……はい」
お猪口を受け取り、ヒスイに習って口を付けていく。
日本酒の爽やかな甘味が口の中に広がり、飲み下すとカッと喉が熱くなる。
「その酒、噛み酒って呼ばれてるんだ」
「えっ?」
「女が口で米を噛んで、それを酒にしたやつ」
動揺のあまり、お猪口とヒスイの顔を交互に見比べる。
そんな原始的な作り方を今でもしている事に対しての驚きと、そしてなんとも言いがたい羞恥が芽生えた。
「嘘だよ」
ヒスイの翡翠色がかった瞳がスッと細められ、口角が緩く上がっている。
嘘だと分かっても上がった熱が冷めることはなく、頬が熱いままだ。
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