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第二章
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しおりを挟む筆者の名は佐々倉 幸朗で、歳は二十五歳だった。
幸朗の記憶が正しければ、明治四十五年であるとされている。日付は不明。ヒスイが日付は不要な物だと言って、教えてくれなかったようだ。
天野にした返答と同じで、妖怪には人間の暦などどうでも良いのかもしれない。
結核で亡くなる前に、書き留めておきたくて筆を取ったようだった。便箋の所々に、黒く変色した血の痕跡が残っている。
幸朗の住んでいた島では漁業が盛んだった。
潮風の香りを嗅ぎながら、漁師の父親と快活な母親の間に生まれたのにも関わらず、幸朗は体が弱かったようだ。
それでも、五人兄弟の二番目として賑やかで慎ましい生活を送っていた。
そんなある時。当時の島では、突如として記憶を無くす者が続出していた。
原因がわからず途方にくれた島民は、禁忌の森に住む妖怪の仕業だと思い込み始める。この森の伝承は受け継がれていて、妖怪がいる事や結界が張られている事も信じられてきた事が大きな要因のようだ。
そこで島民達は、これ以上に被害を増やさないためにも、生贄を捧げることを決意する。
当たり前だが、島民からの選出はかなり困難を極めていた。この忌まわしい森に入って、自らの記憶を差し出すなんて誰もやりたいとは言い出すはずがない。
そんなある時、幸朗の一番可愛がっていた妹のサチコが体調を崩した後に記憶を失ってしまう。
この出来事にショックを受けた幸朗は、自らが行く事を名乗り出た。
病弱な自分では、漁師の仕事は出来ない。ただの穀潰しに成り下がるくらいなら、村人や家族のためにも自分が犠牲になろうと決意する。
それに、大切な妹だけが辛い思いをするのは耐えられない。家族はもちろん反対したが、幸朗の意思は固かった。
森に行く手前から目隠しをされて、島の男達に導かれながら進んで行く。
森に入る時になって男達に「君はこの村を救った英雄だ」と言われ別れを告げられると、幸朗一人で森の奥へと歩みを進めた。
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