青空サークル

60

　一トップから捕まったと聞いていただけに、こっそりドアを開けて覗いてから僕は慎重に体を出した。階段には誰も一おらず、遠くから話し声が聞こえてくるだけだった。
　結局一トップは、文化祭が終わる少し前にヘロヘロになった状態のところを発見した。ファンだという生徒に捕まって、サインをねだられたりと大変だったらしい。
　まだ知名度も低かったお陰で、そんなに騒ぎにならなかったのが救いだったようだ。
「なーこさんと眼鏡さんに会いたかったな」
　屋上を見上げながら、一トップが拗ねたように呟く。
「こんな機会、なかなかないからね」
　僕も残念だった。せっかくならば一トップを二人に紹介したかったからだ。
「そういえばさぁ、どうなったの？　二人の未練について」
　卒業まで残り四ヶ月を切っている。僕も正直焦りもあった。だけどなーこも眼鏡くんもそのことを一向に教えてくれなかった。
「それがまだ教えてくれないんだ。なーこも眼鏡くんも」
　何度も聞いたけど、眼鏡くんの唯一のヒント以外は何も分からなかった。
「眼鏡さんは、お兄ちゃんにやるべき事をやれって言ったんだよね」
「……そうだけど。でも多分、二人は気をつかって、そう言ってるんじゃないかって」
　僕がいつまでも前に進まない探索を続けているから、二人は気遣ってそんなことを言ったのだと思っていた。
「それもあるかもしれないけど……もしかしたらさぁ、兄ちゃんが無事に卒業するのが正解とか」
「僕が……卒業？」
　まさかと僕が思ったところで、文化祭の終了を告げる放送が流れる。
　撤収作業の為に僕は戻らなければならず、一トップとはここで別れることになった。
　持ち場に戻る間、僕はずっと考えていた。
　最初から最後まで僕の為。
　もし、そうなら二人は本当に現れて後悔しなかったのだろうか。
　どうしても思考が、マイナスな方へと流れていく。
　本当に二人に出来ることはないのだろうか。
　でも、どんなに考えても答えは出なかった。