青空サークル

箕田 はる

文字の大きさ
上 下
59 / 67

59

しおりを挟む

 気付けば十一月になっていた。
 文化祭に加え、学校推薦を辞退したことで、入試や共通テストの為の勉強に、奔走する日々を送っていた。
 でも大変なことだけじゃない。以前まではただ時が過ぎるのを待っていた学校行事も、楽しみだと思えるようになっていた。
 賀成となーこの家に行き、カラオケにまで行ったあの日以来、僕は少しずつクラスメイトとも話せるようになったからだ。それはひとえに賀成が、僕に気軽に話しかけ、僕もそれに対して返すというのを周囲が見ていたからだろう。
 拒絶していたのは周囲じゃなくて、僕だったのだ。幽霊くんというあだ名もいつの間にかなくなり、気付けば僕のことをみんなホッシーと呼ぶようになっていた。
 だから今年の文化祭にトップが来たいと言ったとき、僕は二つ返事したのだ。
 文化祭当日、僕のクラスは焼きそばをやった。手の込んだものは受験生には難しいことから、一番準備が楽な飲食店にしたのだ。
 僕と一は焼きそばを片手に、屋上へと向かった。構内には色んな人がいたけれど、展示物に夢中でこちらを気にする人はいない。
 まず僕が屋上の扉を開けて、中に入った。さすがに二人に黙って、一と会わせるのは失礼だと思ったからだ。
 なーこと眼鏡くんは事前に、今日が文化祭であることは言ってある。二人は屋上の縁に腰掛けて、何やら話し込んでいるようだった。
「なーこ、眼鏡くん」
 僕が声をかけると、二人が同時に振り返る。
「あ、ホッシー」
 なーこが手を振りながら、立ち上がる。
「あのさ……実は今日、弟が来てるんだけど、ここに入れてもいい?」
「そっか、文化祭だから見に来てるんだね。あたしは別にいいけど……」
 なーこが眼鏡くんの方を見る。眼鏡くんも「構わないが」と立ち上がる。
「じゃあ……呼んでくるよ」
 そう僕が言ったところでスマホが短く鳴る。確認すると、トップからだった。
『捕まったから行けない』と、まるでホラーやミステリーのようなメッセージが入っていた。
「なんかトップが見つかったらしくて、ここに入れないみたい」
「……そっか。残念」
 なーこがしゅんとした顔をする。
「そういえば、最近ここに来ることが減ったけど忙しいの?」
「……うん。実は推薦を辞退して……一般を受けることになったから」
 嘘じゃない。だけど、最近はお昼をクラスメイトと過ごすこともあって、屋上に来る時間が減っていた。それに受験勉強や面接の練習もあって、放課後もなかなか来れずにいたのだ。
「ええーなんで? 辞退しちゃったの? 推薦だったら、べんきょーしなくても良くなるのに」
 なーこが絶叫する。
「別に勉強しなくてもいいわけじゃないだろ」と、眼鏡くんが隣でツッコむ。
「実は……教育学部に行こうと思ってて……」
 一月ほど前から決めていたことだけど、僕はまだ二人に言えないでいた。これで眼鏡くんから社交辞令だったのに、なんて思われたら、穴があったら入りたい状態になりそうだったからだ。
「えええぇっ。いいじゃん、いいじゃん」と、なーこが本日二回目の絶叫を上げる。
「良かったじゃん。眼鏡くんっ。ホッシーが眼鏡くんの意思を引き継いでくれるって」
 なーこがバシバシと音が鳴りそうなぐらい、眼鏡くんの肩を叩く。実際は当たっていないけれど、現実だったら相当痛そうだった。
「ああ……俺の代わりに、その道を歩んでくれるなら……本当に感謝しかない」
 眼鏡くんの目が心なしか赤く見える。でも僕の勘違いかもしれない。僕はあえて目を逸らした。
「頑張れよ。俺たちの分まで」
 眼鏡くんが言い、なーこが「がんばれー」と背中を押してくれる。いつもなら嬉しいけれど、少しだけプレッシャーを感じていた。
 結局は焼きそばを食べないまま、僕は屋上を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...