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しおりを挟む気付けば十一月になっていた。
文化祭に加え、学校推薦を辞退したことで、入試や共通テストの為の勉強に、奔走する日々を送っていた。
でも大変なことだけじゃない。以前まではただ時が過ぎるのを待っていた学校行事も、楽しみだと思えるようになっていた。
賀成となーこの家に行き、カラオケにまで行ったあの日以来、僕は少しずつクラスメイトとも話せるようになったからだ。それはひとえに賀成が、僕に気軽に話しかけ、僕もそれに対して返すというのを周囲が見ていたからだろう。
拒絶していたのは周囲じゃなくて、僕だったのだ。幽霊くんというあだ名もいつの間にかなくなり、気付けば僕のことをみんなホッシーと呼ぶようになっていた。
だから今年の文化祭に一が来たいと言ったとき、僕は二つ返事したのだ。
文化祭当日、僕のクラスは焼きそばをやった。手の込んだものは受験生には難しいことから、一番準備が楽な飲食店にしたのだ。
僕と一は焼きそばを片手に、屋上へと向かった。構内には色んな人がいたけれど、展示物に夢中でこちらを気にする人はいない。
まず僕が屋上の扉を開けて、中に入った。さすがに二人に黙って、一と会わせるのは失礼だと思ったからだ。
なーこと眼鏡くんは事前に、今日が文化祭であることは言ってある。二人は屋上の縁に腰掛けて、何やら話し込んでいるようだった。
「なーこ、眼鏡くん」
僕が声をかけると、二人が同時に振り返る。
「あ、ホッシー」
なーこが手を振りながら、立ち上がる。
「あのさ……実は今日、弟が来てるんだけど、ここに入れてもいい?」
「そっか、文化祭だから見に来てるんだね。あたしは別にいいけど……」
なーこが眼鏡くんの方を見る。眼鏡くんも「構わないが」と立ち上がる。
「じゃあ……呼んでくるよ」
そう僕が言ったところでスマホが短く鳴る。確認すると、一からだった。
『捕まったから行けない』と、まるでホラーやミステリーのようなメッセージが入っていた。
「なんか一が見つかったらしくて、ここに入れないみたい」
「……そっか。残念」
なーこがしゅんとした顔をする。
「そういえば、最近ここに来ることが減ったけど忙しいの?」
「……うん。実は推薦を辞退して……一般を受けることになったから」
嘘じゃない。だけど、最近はお昼をクラスメイトと過ごすこともあって、屋上に来る時間が減っていた。それに受験勉強や面接の練習もあって、放課後もなかなか来れずにいたのだ。
「ええーなんで? 辞退しちゃったの? 推薦だったら、べんきょーしなくても良くなるのに」
なーこが絶叫する。
「別に勉強しなくてもいいわけじゃないだろ」と、眼鏡くんが隣でツッコむ。
「実は……教育学部に行こうと思ってて……」
一月ほど前から決めていたことだけど、僕はまだ二人に言えないでいた。これで眼鏡くんから社交辞令だったのに、なんて思われたら、穴があったら入りたい状態になりそうだったからだ。
「えええぇっ。いいじゃん、いいじゃん」と、なーこが本日二回目の絶叫を上げる。
「良かったじゃん。眼鏡くんっ。ホッシーが眼鏡くんの意思を引き継いでくれるって」
なーこがバシバシと音が鳴りそうなぐらい、眼鏡くんの肩を叩く。実際は当たっていないけれど、現実だったら相当痛そうだった。
「ああ……俺の代わりに、その道を歩んでくれるなら……本当に感謝しかない」
眼鏡くんの目が心なしか赤く見える。でも僕の勘違いかもしれない。僕はあえて目を逸らした。
「頑張れよ。俺たちの分まで」
眼鏡くんが言い、なーこが「がんばれー」と背中を押してくれる。いつもなら嬉しいけれど、少しだけプレッシャーを感じていた。
結局は焼きそばを食べないまま、僕は屋上を後にした。
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