青空サークル

箕田 はる

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闇の中を落下し続けていた神藤葉羽と望月彩由美の意識が、ゆっくりと戻り始めた。二人が目を開けると、そこは見覚えのある場所だった。
「ここは...」葉羽が驚きの声を上げた。
「私たちの小学校?」彩由美が続けた。
確かに、そこは二人が通っていた小学校の校庭だった。しかし、何かが違う。空は薄暗く、周囲には霧がかかっている。そして、校舎は不自然なほど巨大に見える。
葉羽は慎重に周囲を見回した。「これは現実じゃない。おそらく、私たちの記憶を基に作られた空間だ」
彩由美は不安そうに葉羽の腕にしがみついた。「どうして私たちがここに?」
その時、遠くから子供たちの笑い声が聞こえてきた。二人が声の方を見ると、幼い頃の自分たちが校庭で遊んでいる姿が見えた。
「あれは...私たち?」彩由美が息を呑んだ。
葉羽はうなずいた。「ああ、でも近づかないほうがいい。これは試練の一部だ。私たちの過去を利用して、何かを伝えようとしているんだ」
突然、空間が歪み始め、景色が変化した。今度は中学校の教室の中にいる。黒板には複雑な数式が書かれており、生徒たちが真剣に授業を受けている。
葉羽は黒板の数式に目を凝らした。「これは...量子力学の基本方程式?でも、中学生には難しすぎる」
彩由美も黒板を見つめた。「私、この授業の記憶がないわ」
葉羽は考え込んだ。「これは私たちの実際の記憶ではない。何か別の意味がある...」
彼が言葉を終えるか終えないかのうちに、再び空間が変化した。今度は、見知らぬ研究所のような場所だ。白衣を着た科学者たちが忙しそうに作業している。
「ここは...」葉羽が目を見開いた。「まさか、遺言状の作者の記憶?」
彩由美は科学者たちの顔を見ようとしたが、不思議なことに誰の顔もはっきりと見えない。「葉羽くん、この人たち、顔が...」
葉羽もそれに気づいた。「そうか、これは完全な記憶ではない。断片的な情報を基に再構成されたものなんだ」
二人が研究所の中を歩いていると、突然、警報が鳴り響いた。科学者たちが慌ただしく動き回り始める。
「何かが起きている」葉羽が緊張した面持ちで言った。
そのとき、一人の科学者が二人の前に立ちはだかった。その顔だけははっきりと見える。
「お前たちか、真実を追い求めているのは」科学者が厳しい口調で言った。
葉羽は一歩前に出た。「はい、私たちです。あなたは誰ですか?」
科学者は深いため息をついた。「私は...いや、それは重要ではない。お前たちに警告しなければならない。その真実は、人類に知られてはならないものだ」
彩由美が声を上げた。「でも、なぜですか?知ることで、世界をより良くできるかもしれません」
科学者は首を横に振った。「お前たちには理解できない。その知識は、世界の秩序を根本から覆す力を持っている」
葉羽は拳を握りしめた。「それでも、私たちは知る必要があります。この謎を追い続けてきた理由が、きっとあるはずだ」
科学者は二人をじっと見つめた。「そうか...ならば、最後の試練を与えよう。お前たちの過去と向き合うのだ」
その言葉と共に、空間が再び歪み始めた。葉羽と彩由美は、自分たちの人生の重要な場面を次々と体験することになる。
幼少期の喜びと悲しみ、学生時代の苦悩と成長、そして現在に至るまでの決断の数々。全てが鮮明に蘇ってくる。
「つらい記憶もある」彩由美が涙を流しながら言った。「でも、これが私たちなんだね」
葉羽は彩由美の手を強く握った。「そうだ。私たちはこの経験全てを通して、今の自分になった」
記憶の洪水が収まると、二人は再び研究所にいた。科学者が静かに話し始める。
「よく耐えた。お前たちの決意は本物だ。しかし、最後の選択が残っている」
彼は二つの扉を指さした。「右の扉を選べば、全ての真実を知ることができる。しかし、二度と元の世界には戻れない。左の扉なら、全てを忘れて日常に戻ることができる」
葉羽と彩由美は顔を見合わせた。
「どうする?」葉羽が静かに尋ねた。
彩由美は少し考えてから答えた。「私は...葉羽くんと一緒なら、どちらでも構わない」
葉羽は微笑んだ。「そうか...」
彼は科学者に向き直った。「私たちは、右の扉を選びます」
科学者は深くうなずいた。「そうか...覚悟はいいな」
葉羽と彩由美は手を取り合い、右の扉に向かって歩き出した。扉を開ける瞬間、まばゆい光が二人を包み込んだ。
そして、彼らの意識は新たな次元へと引き込まれていった。真実の扉の向こうで、彼らを待ち受けているものとは...
第5章は、ここで幕を閉じる。葉羽と彩由美の選択が、彼らの運命と世界の行く末をどのように変えるのか。それは、次の章で明らかになるだろう。
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