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しおりを挟む「そうだよ。兄ちゃんが歌ったり踊ったりしてるの見て、楽しそうだなぁって。それに兄ちゃんと一緒にやりたいとも思ってたし」
一が入所前に、何度も見に来ていたのは知っていた。だけどそんな風に思っていたなんて、聞いたことがない。だけど考えてみれば、一が入所してからすぐに僕は退所していた。
「……ごめん」
「ううん。今はもっと歌を上手くなって、舞台に出るのが夢なんだ。舞台に立てたら、兄ちゃん見に来てくれる?」
僕は今まで一が出演している作品を見ていない。ドラマも映画も舞台も避けて来たのだから当然だった。
「もちろんだよ」
一がホッとしたような顔をする。
「それで、なーこさんの方はどうするの? 名字と名前が分かれば、俺も調べるけど」
「阿達 奈美子。聞いたことある?」
「あだち、なみこ……」
一が記憶を手繰るように、ゆっくりと繰り返す。
「なんか聞いたことがあるような……でも、気のせいかもしれない」
ごめんと肩を落とす一に、「しょうがないよ」と返す。阿達も奈美子も日本全国にたくさんいる名前だ。聞き馴染みがあってもおかしくない。
「でも一応、SNSとかで調べてみるよ。昔とはいっても十年ぐらいだったら、繋がりがある人がいるかもしれないし」
一は早速スマホを取り出す。
「僕はもう一度、なーこから話を聞いたり、家に行ったりしてみるよ」
僕に出来る事を今はやるしかない。カレンダーを見ると、すでに九月の後半に差し迫っていた。
もし学校推薦が通ったとしたら、十一月には大学で試験がある。それに向けて面接の練習や小論文の書き方を勉強しなくちゃいけない。
「一……あのさ、もう一つお願いがあるんだけど」
「何? なんでも言って」
一が身を乗り出すようにして、詰め寄ってくる。それを子犬みたいだなと思いながら、僕は「面接の練習に付き合って欲しい」とお願いする。
「良いよ。任せて」
張り切る一を前に僕は、一が弟で良かったと心から思っていた。
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