青空サークル

箕田 はる

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「星河は? 子役やって何か得られたことってある?」
「……得られたこと」
 僕は考える。発声練習や歌唱、演技の仕方の練習はよくやっていた。
 ふと、屋上でなーこと眼鏡くんから歌が上手いと言われたことを思い出す。僕はそこで初めて、子役をやっていたことで得られたことがあったことを知った。
「歌が上手いって……言われた」
 僕が呟くにように言うと、賀成が声を上げて目を丸くした。
「マジで。聞いてみたい」
「いや……そんなたいしたことないし」
「聞いてみなきゃわかんねぇじゃん」
 興奮気味の賀成に、僕は自分の発言を悔やんだ。
「でも、さすがにここだと……」
「じゃあさぁ、今からカラオケ行こうぜ」
「え、でも……」
 窓の外は薄暗くなっている。店内にかけられた時計を見ると、すでに六時を回っていた。僕が視線を時計に向けていたことで、賀成も振り返って見上げる。
「まだ六時じゃん。これから行こうぜ」
 もう決定事項だと言わんばかりに、賀成が立ち上がる。トレーを持ったことで、僕も慌てて立ち上がった。
 電話だと言いづらいこともあって僕は「友達と遊んでから帰るから、夕飯はいらない」とメールを送る。
 夕飯を食べないということが初めてのことで、怒られるかもしれないと思うと正直不安だった。
「やっぱまずかった?」
 僕がスマホ片手に浮かない顔をしたからか、賀成が隣で聞いてくる。
「ううん。こんな時間まで外にいるのが初めてで」
「そっか。まぁ補導される時間までには、帰るから安心しろよ」
 それからタッチパネルを渡され、僕は慌ててスマホをテーブルに置く。画面には広告が流れていて、何をどうすれば良いのか戸惑う僕に、賀成はペンで画面を押した。
 途端にメニュー画面に切り替わる。
「なんか、こんなこと言うのもあれだけど……タイムリープしてきた人みてぇ」
 賀成が笑う。確かにそうかもと、僕は苦笑する。初めてのことが多すぎて、そう見えてしまっても仕方がないことだった。
 カラオケ店に入った時も、受付を賀成が済ませてくれていたのだから。
「じゃあ俺は案内人てやつかな」
 賀成が「ご案内致します」と掌を上に向け、受付嬢さながらに首を傾げたことで、今度は僕も笑った。
「さて、じゃあ何を歌う?」
 ペンで画面をタッチしながら、二人で曲を選定していく。
 一曲目はさすがに緊張したけれど、二曲目三曲目を歌っていくうちに、自然と楽しいと思えるようになっていた。賀成も歌が上手く、僕は「僕よりも上手いじゃん」と言うと「いやいや、プロには勝てないから」とマイクを渡してくる。
「プロじゃないし」
「いや、学んだ人間には勝てないよ。だけどピアノだったら、俺の方が上だけどな」
 ピアノを弾く真似をする賀成を見て、僕は声を上げて笑う。
 二人でデュエットもして、気付けば八時を過ぎていた。
 設置されていた電話で延長するか聞かれたところで、僕たちは帰ることになった。
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