青空サークル

箕田 悠

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 一人娘でまだ若いのに亡くすというのは、親からしたら耐えがたい程の悲しみであるはずだ。親ではない僕でも、それぐらい分かる。
 なーこの両親が今どうしているのかも気になるところだ。でも知ったところで、どうなーこに伝えるか。どう言ったところで、なーこの心は複雑に違いないはずだ。
 話しているうちに、あっという間に二駅先の駅に着く。
 電車から降りると、駅自体が大きな駅ビルになっていて、駅の外には広いバスターミナルもある。僕の地元駅よりも栄えているようだった。
 すぐ近くの駅にも関わらず、僕は一度もこの駅を降りたことがない。
 物珍しさからキョロキョロと辺りを見渡していると、賀成が「田舎者みてぇ」と笑う。
「栄えてるなぁって思って……」
 僕は恥ずかしさから、言い訳がましく言う。
「へぇー。こんなの普通だと思ってたけど。どっから通ってんの?」
 僕が最寄り駅を口にすると、「思ってたより遠っ」と軽く仰け反る。
「そっちの方は、行ったことがないかんなぁ」
「賀成、くんは……どこ?」
 クラスメイトの名前を呼んだことがない僕は、迷いながら口にする。
「別に呼び捨てで良いよ。俺は――」
 地元駅の話をしながら、気付けば景色が住宅街に変わっていた。
 駅前の喧騒とは違って、少しだけ落ち着いた空気だった。
 家々が立ち並ぶ中で、ある一カ所で賀成が「ここがそう」と立ち止まる。
 戸建ての一軒屋で、二階建ての縦長の家だった。明るめのグレーの屋根にベージュの壁で、似たような形と色合いの家が隣や後ろにも点在している。
 都内ではよく見る、分譲住宅の一つのようだ。
 表札には「阿達」と書かれている。まさしくここが、なーこの家だ。
 僕の心臓が大きく打ち、強い喉の渇きを覚えた。
 ここに来る数日前に、なーこにフルネームと家族構成を聞いていたのだ。表札があるところを見ると、引っ越しはしていなさそうだ。
 窓はカーテンで閉ざされていて、人の気配はここからでは分からなかった。
「どうする?」
 賀成が僕の方を見る。さすがに賀成に、これ以上付き合ってもらうわけにはいかない。
「ありがとう。じゅうぶんだよ」
 僕は満足した事を告げて、その場を離れることにした。
 賀成は「いいのか?」と振り返っていたけれど、さすがに突然訪問するには理由が必要だった。
 何かとっかかりを見つけてから、また改めて出直す方がいいはずだ。
 僕らが駅に向かって歩き出したとき、前方から自転車に乗った六十代ぐらいの女性がやってくる。広がって歩いていた僕は少しだけ、賀成の方に寄った。自転車が通り過ぎていく。
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