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しおりを挟む「あたしはこの学校にいたからかも」
「え、ここの生徒だったの?」
僕は驚く。そんな話は聞いていなかった。だったら、教師に聞けばもしかすると、なーこの事を知っている人も出てくるかもしれない。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「……聞いてない。初めて知った」
それから僕は何人かの教師の名前を挙げる。だけど、なーこは「うーん」と渋い顔をした。
「もう何十年も前だし、覚えてないなぁ。先生も変わっちゃってるかもだし」
「……そっか」
「でも……あたし、この学校で死んだから、もしかすると知ってる先生はいるかも」
僕は絶句する。初めてなーこの口から死について聞いたこと以上に、この学校でという言葉に強い衝撃を受けていた。
「死んだって、まさか……」
僕が無意識に屋上の縁に目をやると、なーこが「違う違う」と手を振る。
「階段から落ちちゃってさぁ。事故だよ」
なーこはいたって平然と言っているが、僕は動揺を隠せなかった。
「知らなかった? 噂になってると思ってたけど」
僕は首を横に振る。僕が知らないだけなのかもしれないが、とにかくそんな事がこの学校で起きていたことがショックだった。
「そんな落ち込まないでよぉ。やっぱりやめとく? あたし、ホッシーに無理して欲しくないし」
「僕は大丈夫。それより、なーこの方が辛いと思う」
突然のことなのだから、なーこの方がショックは大きかったはずだ。明るく言ってるけれど、それも空元気かもしれないのだから。
「あたしの方こそ大丈夫。だって、ここから出たら、自由になれるかもしれないんだし」
「……そっか」
「だから、何でも聞いてよ。少しでもヒントがあった方がいいっしょ」
僕は頷く。なーこが覚悟を決めたのだから、僕も腹をくくるべきなのだ。
「当時の状況とか覚えてる?」
なーこはまたしてもうーんと、唸る。
「確か友達と話してて、みっちーだったかなぁ。理科室から教室に帰ろうとして、階段を降りたときによそ見してたら、足を踏み外して……そっからは記憶がなくなって、気がついたらその階段にいて……」
「その階段ってどこ?」
僕は校舎の地図を頭に浮かべる。間取りが変わっていなければ、当時の場所が今もあるはずだ。
「別棟の理科室近くの階段だったかなぁ」
別棟には、専門教科の部屋がまとまってある。理科室は三階にある。その階段ということは、誰もが一度は通っている。もちろん僕も、何度となくその階段を上り降りしていた。そんな事故があったとも知らずに。
「事故があってすぐに、その場所にいたの?」
「ううん。ここ一、二年ぐらいかなぁ。日付とか分からないから、正確なことはわかんないけど……ただ、学校の様子も全然違うし、知ってる人も一人も居なくて。それに、誰もあたしのこと気付いてくれなかったし。あ、死んだんだってそこで気付いたんだっけかなぁ」
その時のことを思い出したのか、なーこの表情が陰る。話を聞いているだけでも、その時のなーこの困惑が伝わってくるようだった。
「で、校内をフラフラしてたら、眼鏡くんに会ったってわけ」
なーこはちゃんと、自分の死を理解しているようだった。自分が死んだということに気付かないで彷徨ってしまうということはあると聞くけれど、そうではないらしい。
ならば何故、それも最近になって、この学校に現れたのか。
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