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しおりを挟む九月になった。今年の夏休みはあっという間に過ぎていて、今までの人生で一番充実したものとなっていた。
始業式だけの今日は、午前中には学校が終わる。まだ夏休みの余韻を残している教室を出て、僕が向かう先は屋上だった。久しぶりに学校に人が多いということで、僕は当初の頃のように、周囲を警戒しながら屋上の階段を上がった。
扉を開けると、まだまだ夏と同じ強い光と熱風が僕を襲った。
「久しぶりーホッシー」
相変わらずのハイテンションで現れたなーこに僕は、「久しぶり」と返す。
さっき教室で見たクラスメイト同士の会話をまさか自分も、出来るとは思っていなかっただけに何だか胸が熱くなった。
それに少しだけ、居なくなっていたらどうしようという不安もあった。それだけに余計に感動していた。
「充実した夏休みだったようだな」
まだ何も言っていないのに、眼鏡くんはすでに僕の変化に気付いたようだった。
「うん。おかげさまで」
「ホッシー髪切ったんだねぇ。めっちゃイケメンじゃん」
僕は照れくさくなりながら、カットしたての髪を触った。長かった前髪が短くなったことで、何だか視界までもが広がった気がしていた。
クラスメイトたちの驚いた顔で僕を見る目にも、照れくささだけで不思議と嫌な気持ちはしなかった。
「日焼けもしてるしぃ。楽しかったみたいだね」
なーこは親指を立てて、良かったと繰り返す。
「二人のおかげだよ。ありがとう」
それから僕は、二人に夏休みにあった出来事を語る。
弟と夏祭りに行ったこと、プールや花火大会に行ったこと。まるで今まで出来なかった過去を取り戻すように、二人の時間を満喫したのだと――
「良かった。うん……本当に」
なーこが目元を指先で拭う。
「なんだか、親みたいだな」
そういう眼鏡くんの目も優しい。
「それで……弟に話したんだ。全てを」
僕は思い切って切り出す。自分が屋上に来た理由と、二人に出会ったことで、今自分はこうして生きていることを弟に話したことを。
「弟は信じてくれた。そのうえで、二人の事を良い友達と言ってくれて」
「優しい弟なんだね。ホッシーに似て」
僕は首を横に振った。僕は優しくなんかない。
「僕とは全然違うよ。だって、僕は弟が本当に優しい人間なのに、偽善者だなんて思ってたんだから」
「でも今はそう思わないんだろ。だったら、良いじゃないか」
眼鏡くんが「過去の失態ばかり気にしていてもしょうがない」と続ける。
「うん。そうだね」
自分の心が少しだけ軽くなる。こんな二人と別れるのは正直辛い。だけど、二人には生まれ変わって、幸せな人生を歩んで欲しかった。
「実はさぁ……二人に話があるんだ」
二人の視線が僕に向けられる。僕は一度、唾を飲むと、心を落ち着かせてから切り出す。
「僕は二人に何度も助けられてる。だから……力不足かもしれないけれど、僕も二人を助けたい」
「……助けるって?」
首を傾げるなーこに「二人をここから解放してあげたい」と僕はハッキリ告げる。
成仏という単語は仏教用語だし、その言葉がここでは相応しいのか分からなかった。だから僕はあえて、解放という言葉で二人に伝えた。
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