青空サークル

箕田 はる

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 七時間目を目前に教室に戻ってきた僕をクラスメイトたちは、腫れ物に触れるような目で見ていた。
 それはそうだろう。突然叫んで教室を飛び出し、六時間目の授業を欠席したのだから。
 居心地の悪さを感じながらも、僕は済ました顔で七時間目の授業を受けていた。
 放課後になり、帰り支度をしていると、賀成が僕の方に振り返った。
 気まずそうな顔で「なんか、ごめんな」と言われ、僕は「別にいいよ」と返す。
 賀成は何か言いたげな顔をしたけれど、何も言っては来なかった。
 僕は鞄を持って立ち上がると、教室の外へと向かう。視線を感じたりもしたけれど、僕はそちらを見ないようにした。
 教室から出るとやっと、酸素を得たように呼吸が楽になる。心臓がまだ変に波打っているのは、僕が動揺している証拠だ。
 まさか僕なんかに謝ってくるなんて、思ってもみなかった。
 そのまま、何事もなかったかのように、僕をいない存在として扱うと思っていたからだ。
 屋上に出たところで、「どうだった?」と壁にもたれ掛かっていたなーこが、開口一番に聞いてきた。
 眼鏡くんも、読書を中断して僕の方を向く。
 さっき起きた事を話すと、なーこは「良かったじゃん」と僕の肩をバシッと叩くフリをした。
「ちゃんと怒ったからだよ」
「……そうなのかな」
「そうだって、絶対。だってさぁ、言わなきゃわかんなくない? どう思ってるかなんて」
 なーこの言うとおりだった。
 僕があの場で怒らなかったら、賀成や他のクラスメイトたちも同じ事をまた聞いてきたかもしれない。だって、知らないのだから。僕が嫌だってことを。
 そこでふと、僕は過去を振り返る。どの場面でも僕は、口を閉ざしているだけだった。
 原因は自分にもあったのだと、僕はそこで初めて気付く。 
「確かに言っても通じないとかあるよ。話の通じない奴はいるからさぁ。だったら、何度だって、言ってやればいいし」
 なーこは僕に背を向けて、空に向かって両手を口に当てた。
「嫌だって言ってんだろーが」
 大声で叫ぶ。反響はしなかったけれど、僕には充分に彼女の気迫を感じられていた。
 ハァと言って、なーこが伸びをする。ね、と言って、なーこが振り返る。
「なーこは凄いよ」
 僕は素直に感心し、それから尊敬していた。見た目は派手だし、真面目には見えないけれど、規則を守って勉学に励む僕なんかよりずっと、ずっと人生の先を行っているように感じた。
 きっと生きている時はいろんな経験をして、人間関係も上手くやっていたのかもしれない。なーこなら社交的だし、僕とは正反対な人生を送ってきたはずだ。
「全然凄くないよ。だって、死んでからだもん。そんな風に考えたの……生きていた時は、なーんもわかんなかったし」
 なーこが地面を見つめる。緩く巻かれた茶髪がその横顔を隠してしまい、どんな顔をしているのか分からなかった。
「でも死んでから、色々考える時間も増えて、あの時、あーしてれば良かったとか、こーしてればもっと変わってたかなぁって考えちゃって。眼鏡くんと会って、喧嘩して、でも二人しかいないから、理解し合わなきゃいけなくて、じゃあ、どうしたら良いのかって、考えて、考えまくってたら、何となくだけど今があるってゆーか」
 いつになく悄然とした様子のなーこに、僕は言葉を失っていた。天真爛漫に見えていただけに、なーこの知らない一面が僕に衝撃を与えていた。
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