22 / 67
22
しおりを挟む七時間目を目前に教室に戻ってきた僕をクラスメイトたちは、腫れ物に触れるような目で見ていた。
それはそうだろう。突然叫んで教室を飛び出し、六時間目の授業を欠席したのだから。
居心地の悪さを感じながらも、僕は済ました顔で七時間目の授業を受けていた。
放課後になり、帰り支度をしていると、賀成が僕の方に振り返った。
気まずそうな顔で「なんか、ごめんな」と言われ、僕は「別にいいよ」と返す。
賀成は何か言いたげな顔をしたけれど、何も言っては来なかった。
僕は鞄を持って立ち上がると、教室の外へと向かう。視線を感じたりもしたけれど、僕はそちらを見ないようにした。
教室から出るとやっと、酸素を得たように呼吸が楽になる。心臓がまだ変に波打っているのは、僕が動揺している証拠だ。
まさか僕なんかに謝ってくるなんて、思ってもみなかった。
そのまま、何事もなかったかのように、僕をいない存在として扱うと思っていたからだ。
屋上に出たところで、「どうだった?」と壁にもたれ掛かっていたなーこが、開口一番に聞いてきた。
眼鏡くんも、読書を中断して僕の方を向く。
さっき起きた事を話すと、なーこは「良かったじゃん」と僕の肩をバシッと叩くフリをした。
「ちゃんと怒ったからだよ」
「……そうなのかな」
「そうだって、絶対。だってさぁ、言わなきゃわかんなくない? どう思ってるかなんて」
なーこの言うとおりだった。
僕があの場で怒らなかったら、賀成や他のクラスメイトたちも同じ事をまた聞いてきたかもしれない。だって、知らないのだから。僕が嫌だってことを。
そこでふと、僕は過去を振り返る。どの場面でも僕は、口を閉ざしているだけだった。
原因は自分にもあったのだと、僕はそこで初めて気付く。
「確かに言っても通じないとかあるよ。話の通じない奴はいるからさぁ。だったら、何度だって、言ってやればいいし」
なーこは僕に背を向けて、空に向かって両手を口に当てた。
「嫌だって言ってんだろーが」
大声で叫ぶ。反響はしなかったけれど、僕には充分に彼女の気迫を感じられていた。
ハァと言って、なーこが伸びをする。ね、と言って、なーこが振り返る。
「なーこは凄いよ」
僕は素直に感心し、それから尊敬していた。見た目は派手だし、真面目には見えないけれど、規則を守って勉学に励む僕なんかよりずっと、ずっと人生の先を行っているように感じた。
きっと生きている時はいろんな経験をして、人間関係も上手くやっていたのかもしれない。なーこなら社交的だし、僕とは正反対な人生を送ってきたはずだ。
「全然凄くないよ。だって、死んでからだもん。そんな風に考えたの……生きていた時は、なーんもわかんなかったし」
なーこが地面を見つめる。緩く巻かれた茶髪がその横顔を隠してしまい、どんな顔をしているのか分からなかった。
「でも死んでから、色々考える時間も増えて、あの時、あーしてれば良かったとか、こーしてればもっと変わってたかなぁって考えちゃって。眼鏡くんと会って、喧嘩して、でも二人しかいないから、理解し合わなきゃいけなくて、じゃあ、どうしたら良いのかって、考えて、考えまくってたら、何となくだけど今があるってゆーか」
いつになく悄然とした様子のなーこに、僕は言葉を失っていた。天真爛漫に見えていただけに、なーこの知らない一面が僕に衝撃を与えていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる