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しおりを挟む「なーこも、ごめん。本当にごめん」
今は姿の見えないなーこに対して、僕は精一杯の謝罪を述べる。目を閉じて、心の底から何度も繰り返す。なーこが馬鹿と言った回数以上に。
「あたしは悪霊じゃないし」
僕は顔を上げる。なーこが手を腰に当てて仁王立ちしていた。墨が垂れたような目ではなく、ちゃんと元の顔に戻っていた。
「……なーこ。ごめん」
僕は今度こそちゃんと、なーこに向かって謝った。
「ホッシーが話すまで、聞かないでおこうと思ってた。だけど、こうなったら聞かないと納得できないじゃん。なんで、こんな事しようとしたかってさぁ」
眼鏡くんが言っていた通り、なーこは初めて来た時の僕の目的に気付いていたようだった。何も知らないフリをして、支えようとしてくれていたのに、今回の件でその配慮を無碍にしてしまったのだ。
「聞いてくれる? 僕の話を」
話すことで許されるとは思っていない。でも話さなかったら、もうなーこは許してくれないとも思った。
なーこはまだ怒った顔をしていたけれど、僕の隣に座ってくれる。
「僕は物心ついた時にはすでに、子役をやらされてたんだ」
ドキドキしながら話を切り出した僕は、二人の反応を伺う。
だけど子役と聞いても、二人は黙ったままだった。そのことに何だかホッとして、僕は話を続けた。
「子役といってもまだ駆け出しで、レッスンもたくさんあって、大人に囲まれること自体が凄く苦痛だった。同い年の子もいたけれど、ライバルみたいなものだったし」
レッスンでミスすると、先生は他の生徒の前で指摘し、手を叩いて怒った。同情的な目線だけならまだ良いけれど、年齢が重なるごとに冷ややかなものに変わっていったのを肌で感じていた。
「そもそも僕には向いていなかったんだ。お芝居や歌が好きならまだ耐えられたかもしれないけれど、そういうわけじゃなかったから。それにオーディションに落ちる度に、母にがっかりされるのも凄く辛かった。何度も辞めたいって言いたかったけど、言い出せなくて……」
小学校に入っても、友達とも上手く付き合えなないまま、レッスンに精を出す日々を送った。それでも、状況は良くなることはなかった。
「小学五年の時、僕は部屋から出られなくなった。学校でも友達が出来ず、子役としても芽が出ない。もう限界だった」
朝起きて、布団から出れない。出たくても出れないのだ。
最初こそ、母は仮病だと言って怒った。だけど、僕が泣きながら「本当に起きれない」と訴えていくうちに、異常な状況に気付いたようだった。
「レッスンだけじゃなくて学校も行けなくなって。さすがに親も焦ったのか、僕に条件を出した。子役を辞めて良い代わりに、必ず学校には行きなさいって」
世間体を気にしてのことだろうと、今なら分かる。だけど、当時はレッスンに行かなくて良いなら、学校の方がマシだった。あからさまなイジメは受けていなかった分、僕にとって学校はそれほど苦痛な場所じゃなかったからだ。
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