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しおりを挟む「何があったか知らないけど、ホッシーも追い詰められてたんだろ」
眼鏡くんがいつもと変わらない、淡々とした口調で言ってくる。
「でもな、死んだからって、今以上に良くなることはないんだ。俺たちを見てみろ。この場所に囚われて、好きなことも出来ない。誰にも気付いてもらえないまま、ただ時だけが流れていく。まるで壁にでもなった気分だ」
眼鏡くんが重たい息を吐く。
来いと言って、眼鏡くんが先を行く。僕は覚束ない足取りでその後を追う。
貯水タンクの日陰に移動し、体育座りしている眼鏡くんの隣に僕も腰を下ろす。
「俺もなーこも、本当だったら早く成仏したいと思っているんだ。ただ、その方法が分からないまま、こうしてここにいる。確かに世の中には、この世に留まり続けたいと思う者もいるだろうけどな。ホッシーはそれを良いことだと思うか?」
僕は首を横に振る。なーこの心の叫びを聞いて、自分の間違いを思い知ったからだ。
「ホッシーが初めてここに来たとき。なーこは喜んだ。久々に自分たちの存在に気付いた人間に会えたからな。だけど、俺は本当はホッシーと仲良くなるのは反対だったんだ」
ずきっとした痛みに、僕は膝に顔を埋める。眼鏡くんが本当は好意的ではなかったのだと知って、落ち込まないはずがなかった。
「誤解しないで欲しい。別にホッシーが気に入らないからってわけじゃないんだ。ホッシーは俺たちといるべきじゃないと思ったからだ」
慰めるようなトーンであっても、僕は顔を上げられなかった。彼の言いたいことは分かる。二人は死んでいるからだ。死者と生者は相容れない。仲良くしても、良いことが一つもないからだ。
「だけど、なーこは言ったんだ。あの子には自分たちが必要だって」
「えっ……」
今度こそ僕は顔を上げる。赤くなった目がじんじんと痛かった。
「あの日、君は飛び降りに来たんだろ?」
「気付いてたの?」
「何となくな。明確には言えないが、俺たちに近い感じがしたんだ。なーこも薄々気付いてたんだろ」
明るく振る舞ってくれていたのは、自分が変な気をこれ以上起こさないようにと考えてのことなのだろう。
理由を聞いてこないのも、なーこなりの優しさなのかもしれない。そう思うと余計に申し訳ない気持ちが込み上げてくる。
「俺たちのしたことで、余計に裏目に出ていたのなら、それは俺たちの責任だ。悪かった」
眼鏡くんが畏まったように、頭を下げる。
「違うよ。二人は悪くない。僕が勝手な思い違いをしていただけだから」
本当にごめん、と言って、僕は頭を下げる。二人の気持ちを自分の良いように勝手に解釈していたのだ。冷静になった今、それが痛いぐらいに分かった。
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